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出会い 3

ようやく涙が止まり落ち着いた頃。 突然ガチャリとドアが開いた。 驚いて目線を向けると。 「勝手に入った。悪い。…それが仁のか」 片手に大きいバッグを持った男の人。 後ろで一つにまとめた髪と無精髭。 ずかずかと入り込んだと思ったら、ベッドに深く腰掛けてきた。 「早かったですね」 「お前が急がせたんだろうが」 夏目さんと仲良さそうに喋っている。 さっき言ってた医者…かな 「翠様、こちらは一ノ瀬という者です。これからは一ノ瀬が、翠様の専属医師となります」 「一ノ瀬裕だ。宜しく…したくねえと思うけど、…まぁ宜しく」 テキパキと治療の準備をしながらも自己紹介してくれた。 「…まずはその肩からだな」 痛みの感覚すらなくなったグロテスクな肩。 そこから治すらしい。 「ちょっと痛いの我慢、な」 そう言いながら、ゆっくりと腕を持ち上げる。 「…っ」 動かすと、再び痛みを訴え始める。 徐々に腕を上げていき、肩と平行になった時。 ゴキンっ 「…っ!!!」 鈍い音がして、突き抜ける痛みと共に肩が元あった場所へと収まった。 続けて、もう片方の肩も同じようにして元の場所へと収まる。 「…よし、終わった。よく頑張ったな」 汗びっしょりかいた俺の顔を、タオルで優しく拭ってくれる。 「梓、肩の湿布は毎日替えてやれ。その度このクリームも塗ってくれ」 「わかりました」 そんな会話を他人事で聞いているうちに、段々と睡魔が襲ってきた。 肩の痛みも大分減った為、「眠れない痛み」がなくなった。 気絶するんじゃなくて、自分の意思が眠ることを選択している。 そんな俺に気づいた一ノ瀬という医者が、優しく布団を掛け直してくれた。 「あとはやっておくから、寝ていい……よく頑張ったな」 2人の苦しそうな微笑みを最後に、俺は眠りの世界へ誘われて行った。

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