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相談役、ジジイ松田
札駅の改札の先に松田が待っていてくれた。ふんわり安心した俺は「ありがとう」を言った。いきなり松田が真っ赤になって「村井の気持ちもヤヤわかる、おい!サトシ、節操無いぞ!」そんなこと言われて俺は「???」
お礼言っただけだよ?へんなの。
「さてと、で?さとしくん?」
松田の家でビールを飲みながら床に座っている。ビールは俺が買った。だってさ、迷惑料だろ?
松田がふんぞり返って俺に聞く。
「で~~だ、お前一緒に住むというのが嫌なのか?事前に相談されなかったのが嫌だったのか?」
「どっちもだ。っていうかコウタロウは口が軽すぎじゃない?」
松田はふふんと笑って言った。
「俺は相談役だからな。情報が集まることになっているのだよ。
それで?一緒に住むにはやぶさかじゃないけど、知らない所で話が進むのはどうなの?ってことかな?サトシは」
「まんまコウタロウに言ってくれよ」
「ふん、お前が釘をささなきゃ、村井はめげないさ」
「コウタロウは今度、松田になんて言ってきたんだよ」
松田は可笑しそうに笑みを浮かべて俺を見る。
「『また、さとちゃんを怒らせた。どこにもいかないように見張ってって』だとさ。あのさ、これを言われたい~~って女子がシコタマいるのに、なんでサトシなんだろって、あらためて考えちゃったわ」
いつもの俺なら顔も赤くなるが今は違う。
「あのさ」
「なんだよ、あらたまって」
「なんでさ、そういうことを松田に言えるのに、コウタロウは俺に言わないわけ?」
「え?」
「だってさ、俺はどこにもいかないよ?そんなにどこかに行きそうに見える?コウタロウがいるのにさあ、他の男でも女でも、そっちにいきそう?」
「サトシが女はないわな」
「だから!」
「そんなこと、わかってる。短いけどお前とはちゃんとつきあってんだ、俺は。さとしは今まで関わった相手が自分と違う相手と寝てたとしてだ、それに対してどう思った?」
どう?どう思ったか?
「何も思わなかった。そんなもんでしょ?な感じ」
「だろ?でだ。村井がメガネ男子に襲われたと思って我を忘れただろ、お前は」
結構それ思い出したくない。俺にとってはトラウマっぽい事件だ。
「それがお前にとっての村井の存在だ。それぐらいお前は村井が好きなんだよ。でも相手はそれを信じていない。「俺の方が好きだ」そう思っているよ、村井はね」
「そ、そんなこと秤もないのに、わからんじゃないか」
「だからこそさ、村井は自分の気持ちにサトシは追いつかないと思いこんでいる」
「追いつくとか、追いつかないとか、そういうものなのかな。それにさ、自分が弱っちくなっているような気がして嫌なんだよ」
「そんなもんだろ?弱くなったりするもんだ」
「松田も?」
「誰でもだろ。まあ、強くもあり弱くもある。違うな……」
松田はちょっと黙った。誰でもそうなのか?良く考えたら相手を思って毎日を過ごすなんて俺初めてだったりするから。
「自分のことがよく見えるようになる。だから弱く感じるのかもな。それなのに相手の事は見えなくなる。だから相手の言葉や行動に一喜一憂するかもしれんな。よく考えたらおかしな話だ」
「お前、すごいな!前から思ってたけど。やっぱりジジイのようだ」
松田の言ったことは本当にそのとおりだった。自分のこと、俺の場合相手が同性なこと、家族のこと。今まで見えていなかったこを考えている自分がいる。そしてコウタロウのことは見えない。傍にいるのに足りない。コウタロウは乾いてカラカラだって言ってたっけ。
「まあ、グダグダいってもだ、世界中の人間の100%が恋愛するもんだろ?100%じゃないかもしれないけど、100%に近いだろうしさ。それだけ皆してるんだから俺達だってできるんだと考えれば気が楽にならないか?
わからないことは村井に聞けばいいさ。悩むより楽だろ?言葉があるんだしさ」
何をグズグズしてたんだろ、俺。おまけに帰ってきちゃったし。あ!あ~~あああ!
「うわ!ヤバ!帰るって言わないで帰ってきちゃった。母ちゃんに何にも言ってない!」
「はぁ?サトシ、お前どんだけ抜けてるんだよ」
松田がゲラゲラ笑いだした。なんだかいつもの空気に戻ったみたいな、そんな瞬間。
「さとし、家に電話しろよ」
松田が必死に笑いを止めようとしながら言うから、俺は母ちゃんに電話した。母ちゃんには散々怒られた。帰るにしろ何にしろ、なんなの、アンタの行動は!と。まあ当然だな。
5分ばかり文句を言ったら気がすんだらしく(今の俺にそのメンタルをくれ!)俺の荷物はコウタロウが取りに来たから預けたとのこと。相変わらず用意のいいことで、コウタロウ君。
コウタロウが戻るのはいつなのかな。たぶん連絡がくるだろう。いや俺が聞くべきかな?明日考えよっと。
「さとし。お好み焼きする買い出し行こうぜ!」
「ほ~い」
今日はお好み焼き食べて酒飲んで、大事なことは明日、明日、明日考える!
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