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絢ちゃん登場

「お好み焼きの粉と小麦粉とどう違うの?」 「俺にそういうこと聞くなよ。なんか入ってるんだよ」  そうだよな、母ちゃんのこと言えないなぁ。インスタントじゃない顔した食品だらけだ、スーパーは。  松田の携帯が鳴った。俺は色々な粉を観察中。ホットケーキの粉、ピザの粉、テンプラにホームベーカリーの粉。米粉?米を粉にしてどうするの? 「んあ~ええと、今日はさとしがいるんだよ。え?あ~別にな、あーー」  松田にしては歯切れが悪いな、なんだろ?ああ、彼女か。 「あ、松田、俺いいよ、話聞いてもらったし帰るわ」 「ちょいまって」  松田は電話を顔から離して俺に言った。 「いや、混ぜてって言ってんだよ。さとし面倒くさいだろ?」  面倒ってことはないけど、松田に悪いよな。二人の時間を邪魔しまくっているし。でも俺も絢ちゃんに逢いたいな。 「お前がいいならいいよ、俺は」 「あ、そうなの?」  珍しくホっとした顔の松田を見て思う。やっぱり一番傍にいるのに一番考えたりするのが彼女だったりするんだな。こんなジジイでも。 「はいはい~んじゃ、あとで」  松田は電話を切って俺の顔を見る。 「今日は暇で酒をのみたかったらしい。更にサトシとこれまで以上に親睦を深めたいらしい」 「え?絢ちゃんが?」 「そ、ジュンちゃんが」 「へえ~お前の彼女奇特なヤツだな」 「そっか?そうでもないよ。お前結構好かれてるぞ、女子達に。まあ村井人気には負けるが」 「俺と違ってコウタロウはかわいいからな」  松田は呆れた顔をして言う。 「まあな。でも乙女ちゃん発動しているサトシもかわいいぞ」  俺はまさに今弱っているから乙女ちゃんなのかもしれない。実感すると顔が赤くなる! 「だからさ、そういう顔は村井の前だけにしろって…」  松田がカートを押してズンズン進むので俺は後を追っかけた。 <そして、その夜>  俺達はゲラゲラ笑いながら床に転がっている。 「てかさ、絢ちゃん?俺と松田はいいけどさ、女の子も床に転がってヘベレケっていかがなもの?」 「いかがなもの?ってサトシどこのボッチャンだよ!」 「さとでも女の子にドキドキするの?チラっ♪」 「ちょっと、ジュン何やってんだよ!」 「あ~だめだわ、絢ちゃん。綺麗だとおもうけど、こないな、ズコンと」 「マツ!綺麗だって!こういうとこがいいのよ~アンタそんなこと言ってくれないし!」 「綺麗って、たかだか肩だろ?肩に綺麗とか言えってか?」 「どこにだって言って欲しいものなの!」 「え?松田言わないの?コウタロウなんかいっつも言ってるぞ、さとちゃんかわいい、さとちゃん綺麗って」  二人の目が四つ。いきなり俺を凝視する。えと、その、あのぉぉ……。  次の瞬間二人は大笑いをはじめた。 「さとし、やめてくれって!腹が!はらがぁぁぁいてえ」 「ヌケヌケと!なんなの~この男は!」 「いいんだよ!俺はベタベタに甘やかされてるの!」 「なんだかんだいって幸せなんだね、さとは。ちょっと悔しいけど可愛いと思っちゃた。村井くんの気持ちがわかるわ」 「俺も最近、お前可愛いと思う……」 「へ?」 「ちょっとマツ!問題発言じゃないの?それ!えええ!」 「あ、あは、アハハハハ」 「うわ~~松田、その乾いた笑いはまずい、やめてくれ!問題になりそうだ、その笑いは!」 「ちょっとあんた達!何かあったら村井君を襲うからね!」 「おい!」「絢ちゃん???」  松田と俺の声が揃って3人がまたゲラゲラ笑って、笑って、笑っているうちに力尽きた。 <お約束の朝チュン>  眩しい……俺はベットの上で目が覚めた。眩しい光が差し込んでいるけれど、外の慌ただしさは感じられない。たぶんまだ早い時間だろう。  床を見たら松田と絢ちゃんが転がっていた。寝ているなんてものじゃない、転がってる。俺だけがベッドって申し訳ない。 「絢ちゃん、ベットに寝なよ」  肩を少し揺すると腫れぼったい目が開く。目の前に俺がいて解らないって顔を最初してたけど、徐々に頭が動いて物事がつながったらしい。 「おはよ」  眠そうに、でも頬笑みながら言ってくれた。可愛いいな(純粋な意味でデス!) 「まだ早いからベットに寝なよ。ごめんね俺ばっか占領しちゃってさ」 「いいよ、いいよ。でもベットに寝る」  絢ちゃんはそう言って俺の手を引っ張った。 「え?なに?」 「もうちょっと寝ようよ」 「へ?」 「いいじゃないの~私達に何かあるとも思えないしさ、自分だけ寝るのは何だか悪い気もするし」 「いや、その、でも」  絢ちゃんは僕の手を離すと、床に転がっている松田を揺すった。 「マツ、床に寝てたら風邪ひくよ、ベッドにいこうよ」 「んあ?」  うわ~松田寝ぼけてる。たぶん3人皆だろうけど。絢ちゃんに引きずられるようにして松田がベットに転がった。 「んあ?サトシ、なに突っ立つてんの?寝ようぜ」  言われるまま川の字になって横になった。 「さすがに狭いな、ジュンが何で真ん中なんだよ」  そうですよ、松田の言うとおりですよ。 「両手に花?花じゃないけどさ、そういうの一回やってみたかったんだ。さとじゃないとできないじゃない」  バカバカしい願望だけど、なんだか可愛くて、クスクス笑いあいながら俺達はまた寝入った。でかい成りをした子供が3人、そんな朝。

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