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どうしたらいい…side :詩音⑥
継から溢れ出るピンク色のオーラに慣れずに戸惑いを覚えつつ、朝食を済ませ身支度を整えた俺達は兄さんの店へと向かった。
自分一人では決して足を踏み入れない圧迫感のある店構えに怯んだが、継がぎゅっと手を繋いできて引っ張られるようにして入店した。
「いらっしゃいませ!継君、詩音!
お待ちしてましたよ。さあ、こちらへ。」
満面の笑みを浮かべた兄さんに先導され、奥の部屋へ案内される。
どうぞ と椅子を勧められ、目の前にビロードのトレイに乗ったペアリングが五種類運ばれてきた。
光に反射してどれもが美しく「さあ、選んで!」と主張しているようだ。
困惑しながら継を見つめると
「さすがお義兄さん、どれも詩音に似合いそうで、迷ってしまいます…全部素敵ですね。
…詩音、君はどれが好きだ?」
「どれって…俺…」
「詩音、合わせてみないか?一番しっくりくるものがあるはずだよ。
さあ、遠慮しなくていいから。
継君、二人で合わせてみてくれないか?」
「ありがとうございます。では、遠慮なく。」
継はうれしそうに俺の右手を持ち上げると、一つずつ薬指に通していった。
「本当は左手だけど、お前は左利きだから敢えて右手にしたんだ」と、継は照れ臭そうに呟いた。
兄さんの店はハイクラスの人達が利用していて、取り扱う商品は桁が違う。
一体いくらするんだろう。俺なんかに高額なものは必要ないのに。
心ここにあらずで、ぼんやりと継のすることを見ていたが、最後の指輪を通された時、不思議と違和感がなく馴染んだのがわかった。
継もそれに気付いたようで
「詩音、これどうだ?」
と言いながら、対になったものを自分にもはめて見せた。
余計な飾りのないシンプルな、それでいて微妙なカーブが美しい。
一つでもいいが、二つが揃うと俺達が夫夫であるという証明が格段に上がる不思議な感覚。
「…キレイ…」
「お義兄さん!これがいいです。これにして下さい。
なぁ、詩音。」
左手を添えて眺めていた俺は、言葉もなくコクコクと首を縦に振った。
「承知致しました。ありがとうございます。
詩音…よかったな。」
俺達を微笑んで見つめる兄さんの目に、薄っすらと涙が滲んでいた。
それを見たら俺までじわりと涙が出て視界が霞んできた。
継が手を重ねてきた。
重なり合う指輪は夫夫の証。
ほんわりと胸の奥が暖かくなって見上げると、継が黙って頷いた。
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