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どうしたらいい…side :詩音⑤
はあっ…
大きな溜息が漏れた。
ドキドキが止まらない。あんな完璧な人に『愛してる』とか『好きだ』と言われて…
本当に俺でいいんだろうか。
俺は普通の家庭の何の取り柄もない、ただのΩなのに。
どうしたらいいんだろう。
流されるまま結婚してしまった…
本当にこれでよかったのか?
ふっと視線を下にやると、身体中に赤い印が散らばっていた。
一つ一つ、そっと指で追っていく。
一体どれだけ付けられたのか。
夥しい数のそれは、彼にどれだけ求められ、愛されたかの証拠だ。
途切れ途切れだが記憶も残っていた。
乱れに乱れ、嬌声を上げ、彼を求め受け入れた自分の姿を。
恥ずかしい…
思わず顔を両手で覆う。
はあっ…
また、ため息が溢れた。
そんな俺の気持ちに気付くこともなく、鼻歌交じりでご機嫌な継が食事の支度を済ませたらしく、俺を呼びに来た。
ふわりと抱き上げられ、ダイニングの椅子に座らされた。
目の前のテーブルには、かりかりに焼けたベーコンと目玉焼き、熱々のクロワッサン。
コーヒーを注ぎ終え、継が蕩けそうな笑顔で俺を見つめる。
そんな目で見ないで…どうしてらいいかわからなくなる。
恥ずかしくて俯くと、顎を持ち上げられキスされた。
「さあ、食べよう。
食べ終わったら支度して、お義兄さんのお店に行くよ。」
「兄さんのところ?…あ…まさか…」
「うん。昨日お願いしといたから。
詩音に似合いそうなのを見繕ってくれるって。楽しみだな。」
兄は某海外有名ブランドの店長をしている。今月から店長に昇格したばかりだ。
昨日、いつの間にそんな話をしていたんだろう。
俺がぼんやりしている間に、継と俺の家族は話をどんどん進めていたのか。
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