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どうしたらいい…side :詩音⑦
俺が値段を確認しないまま(というか元々付いていなかった)継と兄さんとで、どんどん話が進み、『刻印をどうしようか』とか『サイズをもう一度測って』とか、時々意見や同意を求められるが、俺はただ継の言う通りに…
そんなことより、うれしそうな継を見ている方が楽しかったのだ。
やや潤んだ目でぼんやりと見ていたら、いつの間にか打ち合わせは終わったようだった。
「今から仲人さんと結納を納めに行かせていただきます。
本来なら私の両親も伺うべきなのですが、まだ帰国していなくて…申し訳ありません。」
「あぁ、頭を上げて、継君。
それはいいんだ。詩音を…詩音さえ大切にしてくれれば。うちの家族はみんなそう思ってます。
ご丁寧に結納までしてもらえるなんて…逆に恐縮してます。ありがとうございます。
私は仕事なのでおもてなしできませんが、どうぞよろしくお願い致します。
詩音…本当によかったな。」
「兄さん…ありがとう。」
超特急で仕上げるから と泣きそうな笑顔の兄さんと、店員全員で見送られ、俺達は実家へ向かった。
途中、香川先生のお家で合流する。
「おっ、新婚さん!上手くやってるか…おっと、野暮な質問だったな。
おめでとう!よかったな。」
「この度は本当におめでとうございます。家内の伊織です。
いつも主人がお世話になってありがとうございます。
あぁ、こちらが詩音君だね。思った通りにとってもキュート。どうぞお幸せに。
俺達にできることなら何でもお手伝いさせていただきますからね。」
「ご無沙汰してしまって…こちらこそお世話になってます!
おまけに仲人までお願いしてしまって…
ご無理言って申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願い致します。」
「詩音です。
ご迷惑おかけして申し訳ありません。どうぞよろしくお願い致します。」
初めてお目にかかった香川先生の夫様 。側にいるだけで、みんなが幸せな思いになる香りとオーラに溢れている。にっこりと微笑むとエクボができて、ますますかわいらしい印象だ。
継は、後部座席に乗った先生達に向かって
「…香川先生…伊織さんのこと愛してるのはわかるけど、その恋人繋ぎ、今必要ですか?」
継が笑いながら揶揄う。
「当たり前じゃないか。俺はいつでもどこでもひと時も伊織と離れたくないんだ。」
「本当に…もう…」
頬を染める伊織さんも満更ではなく、邪険にせずされるがままだ。
二人からは穏やかな優しい香りが漂う。
お互いを愛し、信頼し合っている香りが。
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