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どうしたらいい…side :詩音⑧
先生と伊織さんの間に結ばれたしっかりとした絆…
俺…俺は…
甘やかな香りに包まれ、不意に視界が遮られ唇に温かいものが触れたと思ったら、ちゅっ と音がして離れていった。
瞬時に何が起こったのか理解できず、驚いて固まる俺に
「新婚の俺達は、オッサンの先生に負けてらんねーからな。あははっ。
じゃあ、出発します!よろしくお願い致します!」
キ、キスされたっ!?先生と伊織さんいるのに!?
全身が、かぁーっと熱くなり心臓が口から飛び出しそうで、あわあわする俺にウインクをした継は、車を発進させた。
「あー、若いっていいねぇ。伊織、俺達も…痛たたたたっ!」
「俊哉 さん、調子に乗らない。」
伊織さんにお灸を据えられた香川先生は、抓られた手を摩りながらずっと拗ねていた。
俺は継の行動に、鳴り止まぬ鼓動を抑えることができず、シートの端に身を縮こまらせていた。
まもなく俺達は、結納と食事会を兼ねた両親の待つ家へと向かった。
継は俺の腰を抱きエスコートしてくれるが、慣れないことに何とも面映ゆく、隙あらば逃げて帰りたい感満載で…それでも継から漂う匂いに抗えず大人しく付いていった。
緊張した面持ちの両親に迎えられ、夢じゃなくて本当なんだ…とぼんやりしている間に略式ながらも結納式が進み…
車内でのヘタレっぷりは何処へやら、伊織さんの素晴らしいサポートもあり、香川先生は完璧に仲人の役を果たして下さったようだった。
幾度となく継に声を掛けられたが、ふわふわとした夢の中にいるようで、『はい』とか『いいえ』しか答えなかった気がする。
そうこうするうちに、俺以外の5人で盛り上がっていたようで、和やかに食事会を終えていた。
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