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忍び寄る影②
緊張のあまり気持ち悪くなりながらも、継と一緒に駐車場から続く裏口から入った。
突然、クラッカーの音が鳴り響き歓声とともに迎えられ、びっくりして思わず継の腕にしがみついた。
「社長ー!詩音くーん!おめでとう!!」
「おめでとうございまーす!!」
「社長!やりましたね!」
社員さん達が手にクラッカーを持ち、口々にお祝いのメッセージを伝えてくれる。
あまりに驚き過ぎて腰が抜けそうになりながら、ハッと気が付いて継から離れようとすると、ふわっと身体が宙に浮いた。
ひえっ
継が俺を横抱きにして大声で叫んだ。
「みんな、ありがとう!
俺と詩音は籍を入れて、晴れて夫夫になりました!
愛する守るべきものが増えて、身の引き締まる思いです!
未熟な点ばかりですが、みんなの力をお借りしたい!
今後もどうぞよろしくお願い致しますっ!」
どっと沸き起こる歓声と指笛。
俺は全身真っ赤になりおろおろしながらも頭を下げて、この時間が早く終われとそればかり願っていた。
抱かれたままエレベーターに乗り込むと
「みんなに祝福されて、俺達は幸せだな。
さあ、溜まった仕事をやっつけてくるよ。
詩音も無理しないでくれ。
帰りはまた連絡するから。」
ちゅ っとリップ音付きのキスをすると、俺を先に下ろして社長室へ上がって行った。
エレベーターのドアが閉まった瞬間、はぁっ…と大きなため息が出た。
会社でキスされちゃった…
当然だけど結婚したのもみんな知ってた…
祝福されてうれしいのと恥ずかしいのとがごちゃ混ぜで、それでも気合を入れ直して営業課へと歩き出した。
後になって思えば、幸せ過ぎて、その時は思いもよらなかった。それくらい幸せに酔って舞い上がっていたのかもしれない。
今までなら、違和感や他人からの嫌な感情を人一倍敏感に感じ取っていたのに。
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