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忍び寄る影④
昼休み…お弁当を持って社長室へ向かった。
継から『会社でもできるだけ一緒にいたいから』とお願いされて、ラ◯ンでやり取りをして、可能な限り俺が社長室へ行って食べることになったのだ。
大きく深呼吸してノックをする。
「はい、どうぞ。」
遠慮がちにドアを開けて覗き込むと、継が蕩けそうな顔で近寄ってきて引き込まれた。
「詩音…寂しかった…」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、くんくん匂いを嗅がれる。
「継!お弁当が落ちちゃいますっ!」
「あっ、ごめんごめん。
午前中だけで詩音不足になってさ…」
謝りながらも継の膝に座らされキスの雨を降らせてくる。
「もうっ、継!お昼休み終わっちゃいます!
早く食べますよっ。」
ぐいぐい両手を突っ張って継から離れ、急いでお茶の用意をしていると、継が弁当箱の蓋を開けた。
「うわっ、美味そう…朝から手間を掛けさせてすまなかったな…いただきます。」
両手をきちんと合わせて継がおにぎりにパクついた。
その食べっぷりに見惚れていると
「美味いっ!俺は幸せだぁ…ほら、詩音も食べなさい。」
はい、と返事をして俺も食べ始めた。
また何処からかあの嫌な匂いがする。
あまりの不快感に、思わず目を細め眉間に皺を寄せ箸を止めた俺に
「詩音?どうした?」
一瞬躊躇ったが、隠しようがなくて思い切って伝えた。
「あ…いえ…今朝から嫌な匂いがして…」
「嫌な匂い?」
「はい…嫌な感情の匂いが…」
「俺みたいな絶対的αは、番だけの感情が匂いでわかるけれど…稀に五感で…鼻が効く場合は『超嗅覚』という、他人の感情が匂いでわかる持ち主がいると聞いたことがあるが…お義父さんが仰ってた『特別』って、このことだったのか…まさか詩音、君、そうなのか?」
俺は黙って頷いた。
「『嫌な感情』か…例えば?」
「…嫉妬、怒り、嫌悪…全てマイナスの感情です。」
「わかった。スーパーΩな上に特殊な能力か…
用心するに越したことないな。
手を打っておこう。
…ということは…俺の気持ち、ずっと詩音にダダ漏れかっ!?」
「…継は…俺の大好きなすごくいい匂いです。」
むぎゅーーーっ
力一杯抱きしめられて息が止まりそうになった。
プロレスのギブアップのように腕をバシバシ叩いて、やっと緩めてもらい、何度も深呼吸してその甘い香りに癒される。
何かが迫り来るような不安はあったが、継の側にいれば大丈夫だという妙な安心感が俺にはあったのだった。
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