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忍び寄る影⑤

それから一週間、あの匂いは全くしなかった。 けれども 「番同士は匂いでお互いの感情がある程度わかるけど、お前は他人までわかっちまうから今までしんどかっただろう? 俺がマーキングして消してやるよ。」 そう言って継は聞き入れず、俺がいくら大丈夫だと言っても、夜はもちろんのこと…時間が合う限りずっと一緒で、今日も買い物にも付き合ってくれた。 特売の日で荷物も多くて助かったのだけれど。 「継、心配し過ぎです。すみません、俺が変なこと言ったせいで。 昔からそんなことは日常茶飯事だったから、ホントに大丈夫ですって。」 「詩音?君は俺の何だ?」 「えっ…あなたの…番…伴侶です…」 「うん、そうだよな。じゃあ大切な伴侶の心配と安全を考えてもいいよな? …お前に何かあってからでは遅い。」 「…はい…」 ふわりと甘くてスパイシーな香りに包まれた。 ホッと一息ついて歩き出した瞬間、『あの』匂いがしてきた。 殺意!? 恐怖で身体が震え立ち竦んだ。 「詩音?」 俺のただならぬ様子に継が訝しげに問いかけた。 幼い頃からいろんなマイナスの感情を見てきて慣れていたはずだった。 でも、こんなはっきりとした悪意の感情を向けられたのは、生まれて初めてだった。 ましてや俺を殺したいほどに憎悪のこもったものなんて。 継が俺の腰を抱き寄せ、威嚇のオーラを放ちながら周囲を見渡している。 そして何かに気付いたのか、携帯を取り出すとどこかへ電話し始めた。 「あぁ、俺だ。 うん、うん。 後は任せたよ、頼む。」 継の香りに包まれたことで、俺の震えも少しずつ治まってきたみたいだった。 あんなの…一体誰が? 「詩音、早く家に帰ろう。顔色が悪い。 さあ、おいで。」 抱かれたまま足早に車に乗り込むと、継は運転中もずっと俺の手を握ってくれていた。 温かな温もりが俺の恐怖を溶かしていく。 呼吸すら忘れていたかのようで、俺はやっと大きく息を吐いた。

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