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忍び寄る影⑥
車から降りても継は俺の手を握ったまま部屋へ入った。
荷物をどさりとダイニングテーブルへ置くと、手を繋いでソファーまで来て俺を膝の上に抱っこした。
「詩音…怖かっただろう?」
頭を撫でられながら抱きしめられて、それだけで冷たかった手足に血が通ってくる。
ふるふると首を横に降るけれど、継には俺の気持ちなんてお見通しだった。
「大丈夫だ。俺が絶対守ってやるから。
あの趣味の悪い香水と…走り去った後ろ姿は…恐らく三ツ矢物産の社長の娘だろう。
一応うちの下請けで仕事上の付き合いがあるから、就任挨拶に回った時に、気持ち悪いほどアプローチしてきたんだ。
俺は更々関わり合うつもりもないから無視してたんだが…
妄想も度を越すとタチが悪い…
親父からもあの親子には気を付けろと言われてる。
…とにかく、お前は絶対に一人になるな。
中田部長にも説明しておくから。
俺のせいで怖い目に合わせてすまない。」
「そんな…継のせいじゃありませんっ!
ただ…あんな殺意のこもった感情は初めてでびっくりしちゃって…
俺なら大丈夫ですから。」
「とにかく一人になるな。」
猛るような荒々しさと、甘くて蕩けそうな優しい匂いがミックスされた継のフェロモンが飛んでいる。
顎をくいっと掴まれて、そっと唇を合わされた。
少しカサついた継の唇から溢れんばかりの愛情がなだれ込んでうれしくて、俺は思わずその唇を舌先でペロリと舐めた。
ちゅ っと音を立てて離れた継の目は大きく見開かれ驚いたような風だったが、すぐに笑顔に変わった。
「詩音…かわいいことするなよ。
…晩メシの前にメインディッシュのお前を喰らいたくなる…」
それは困る!!
慌てて継の腕からすり抜けて、キッチンへ逃げ込んだ。
そして、継の匂いと温もりを感じつつ、晩ご飯の支度に取り掛かった。
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