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忍び寄る影⑦

…今夜も継に抱かれてしまった… いや、意識のある今夜は、はしたなくも俺から継を誘った…きっと。 言いようのない不安と恐怖に押しつぶされそうで、目の前の継の温もりを求めてしまった。 継はそんな俺を優しく、ひたすら優しく抱いてくれた。 「詩音、俺が命を掛けてお前を守るから…心配するな。 どんなことがあっても、絶対に。 だから…怖がらなくてもいい。安心しろ。 俺に…任せて…」 打ち寄せる波のように穏やかな低い声が、身体に染み込んでくる。 温かな…もうすっかり馴染んだ肌、身体の芯から蕩けそうに甘く爽やかな香りとが、俺を包んで離さない。 継の側にいるだけで、いや、継のことを想うだけで心が温かくなり、勇気が湧いてくる。 誰かのことを想い、愛して愛されて… こんな幸せとは無縁だと思っていた。 どこの誰かは知らないが、この胸に初めて抱いた『愛』をむざむざと壊させるわけにはいかない。 継が俺を守ってくれると言うなら、俺だって継を守りたい。 何か力強いものが俺の中で生まれた。 隣で規則正しい寝息を刻む愛おしい伴侶の頬に、遠慮がちに触れてみた。 胸の奥から溢れるこの感情を愛とか恋とか言うのなら… 「詩音…眠れないのか?」 びくっと身体が跳ねた。起きてた?起こした? 継は俺の手に自分の手を重ね、俺をじっと見つめて言った。 「怖い思いはもうさせないから。 俺から離れるな。 さあ、おいで…」 すっぽりと抱きとめられて心の底から安堵する。 『運命の番』…この人でよかった。いや、この人以外考えられない。 神様がいるなら、本当に感謝します… 胸に擦り寄る俺の髪を何度も何度も撫でて、継がキスしてくれる。 ほおっと大きく息をつき、その温もりに身体も…心も委ねて目を閉じた。

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