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忍び寄る影⑧
朝ご飯とお弁当を準備し、継を起こしに行く。
「継、おはようございます。
そろそろ起きないと遅刻しますよ…うわっ」
がばっとベッドに引き倒され、キス。
「おはよう、詩音。
起こす時はキスしてってお願いしてたのに…
さぁ、詩音からしてくれよ。」
どうあがいても離してくれそうもない継に焦れて、真っ赤になりながら瞬間キス。
「しーおーんー…違う。そうじゃない。」
唇を啄ばむように食まれ、緩んだ隙間からぬるりと入ってきた舌に嬲られ、息が上がる。
んっ、んんっ、と、くぐもる声にやっと継が離してくれた。
「これくらいしてくれないと目が覚めない。」
甘えるように言われてお腹の奥がキュンっと痺れる。
「わっ、わかりましたからっ。
早く起きて下さいっ」
甘い匂いを振りほどくように寝室を飛び出してキッチンへ駆け込んだ。
顔が火照り心臓が飛び出しそうに跳ねている。
「もう…継ったら…」
起きてきた継の視線をはぐらかしながら朝食を済ませ、慌ただしく準備をする。
もう少し要領よくできないのか、少し自己嫌悪に陥りながら車に乗り込もうとしたその瞬間、
あの匂い。
目を見開き硬直する俺に気付いた継は、俺を助手席に押し込むとドアを閉め、周囲を確認しながらどこかへ電話している。
かちかちと鳴る歯を抑えようと両腕で己が身を抱え蹲るが、身体の震えが止まらない。
すぐに継が運転席に滑り込むように乗り込んできて
「詩音、大丈夫か?」
と俺を抱きしめてくれた。
ふわりと香る継の匂いと温もりに少し落ち着きを取り戻したものの、ふるふると震えていた。
「とりあえず会社に行くから。」
車が滑るように走り出し、継はずっと手を握っていてくれた。
そのまま社長室に連れていかれ
「中田部長には説明したから、とにかく今日はここで仕事をするように」
と言われた。
忙しい継に代わって篠山さんがあれこれと世話を焼いてくれるが、申し訳なさに泣きそうになる。
こんなことくらいで負けるもんか。
仕事に取り掛かろうとした時、突然ドアが開いた。
不躾に入ってきたその人は、継と同じくらいの身長で見るからにチャラそうなホスト系のイケメンだったが、全く嫌な匂いがしなかった。
「っはよー、継。尻尾掴んだぜ。」
「おはよう。流石だな、桐生。
で?どうだった?」
「はい、ビンゴ!これ、報告書。
ところが…もっと面白いことがわかったんだよ。」
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