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詩音の怒り①
「ん?継のかわい子ちゃんじゃないか。
何で社長室に?あ…そうか。ふんふん、なるほどな…」
「桐生、うるさい。…面白いことって何だ?」
「…嫁さんいるけど、いいのか?」
「聞いたらマズイことか?」
「…いや…嫁さん、詩音君?
何聞いても受け止められる?」
「はい、大丈夫です。」
「できれば香川先生にも聞いてもらいたいんだけど。」
「わかった。今来てもらうよ。」
香川先生が来るまでの間、桐生さんが継の大学時代からの悪友で、今は『対Ω捜査班』…つまり被害・加害両面でΩが関わる犯罪を統括する部署…の警部であること、継から頼まれて俺に付き纏っていたのは誰か調べていたこと…
を教えてくれた。
「おはよう、継、詩音君…おや、桐生君、こんなところで珍しい。先日もありがとうね。」
「おはようございます、香川先生。その節はどうもお世話になりまして、ありがとうございました。」
「いえいえ、どう致しまして。
君が動いてるっていうことは…何かわかったのかい?」
「ええ。個人的に継に頼まれて張ってたんですよ。
詩音君に強い殺意を持つ奴は誰かって。
予想通り、三ツ矢物産の社長の娘でした。継に対しての横恋慕というか妄想思い込みの果てというか…
まぁ、平たく言うとストーカーですよね。
これは、然るべく対応をします。
でも、狙ってたのはそれだけじゃなかった。
詩音君を組織に売ろうとしてたんですよ。
で、それに絡んで…
探ってたら出てくる出てくる。証拠がバッチリ。
最近のΩ行方不明事件の元締めが、三ツ矢物産の社長だったんです。
そこに群がる大物政治家や芸能人、社長クラスが続々と…
だけどその奥に三ツ矢を操る奴がいるはず。」
「えっ?詩音を売る?組織?
まさか…誘拐して何かよからぬことをしようとしてたのか?
くそっ、あの腐れ外道どもめっ!許さん!
早く逮捕しろよっ、桐生!
…だから業績悪化の一路なのに収益がアップしてたのか…」
「全く許せんな…それで、攫われたΩは?」
「…番を持つ子は噛み跡をえぐり取られて犯 されて…それでショック死…
番契約をしてない子は、ただひたすら性奴隷のように…
マジで許せない。」
ドラマの中の話…じゃないよね…
俺を狙ってた!?
まさか、そんな…頸の噛み跡をえぐり取ったって、番の契約は変わらない。
番を持つΩは、番以外の誰かと交わろうとするとアナフィラキシーショックを起こして最悪の場合、命を落としてしまうんだ。
黙って聞いていた俺は、自分が狙われてたこと以上に、怒りのあまりに震えていた。
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