86 / 829

詩音の怒り②

「………せ…………ない……」 「ん?詩音?怖かったよな…だいじょ」 継の言葉を制して俺は思わず叫んでいた。 「許せないっ!…俺達Ωを何だと思ってるんだっ… 番を愛し愛されて、その人だけを見つめて…ただそれだけが幸せで… なのに、なのに…お金儲けのために身体も心もズタズタにして、人の命まで奪うなんて…そんなの絶対に許さないっ!」 激昂する俺を継がぎゅっと抱きしめてくれる。 その温もりを離したくなくて、香川先生や桐生さん、篠山さんがいても、恥ずかしげもなくその背中に手を回して抱き返し、わんわん泣いた。 その場にいた誰もが黙っていた。 番から引き裂かれ痛ぶられ命まで落とし、また無理矢理に手篭めにされた被害者達を思い、それぞれの番を想いながら…沸々と湧き上がる怒りで一杯になっていた。 しばらくして泣き止んだ俺は、継の胸から離れて言った。 「桐生さん…逮捕、できないんですか?」 「あと一歩、決定的な証拠が欲しいんだ。 三ツ矢だけじゃなく、バックの親玉を抑えないと、第二第三の三ツ矢が出てくる。 繋がってる奴らが揉み消そうと必死になってるからね。」 「現行犯逮捕ですよね…じゃあ、囮捜査しましょう。 俺が囮になります。 俺はスーパーΩだから、いいカモだと食いついて来るはずです。 餌にはぴったりですよ。」 「はあっ!?詩音、何言ってるんだ!? バカなこと言ってるんじゃないっ!二度とそんなこと言うなっ!」 「継…絶対に俺を守るって言ってくれましたよね? 俺は、継を信じています。 それに…このままでは絶対に許さない。 そんな奴らが のさばってるなんて…絶対に。」 「確かに何度もそう言った。今でもその気持ちに偽りはない。 だからって、どうしてお前を危険な目に遭わさなければならないんだ? 俺は反対だ!」 「桐生さん、組織を潰すチャンスですよ! 俺、何でもしますっ!」 「桐生…下手なこと言ってみろ…お前を殺すぞ。」 俺を抱きしめて威嚇する継を見て、桐生さんがため息をついた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!