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詩音の怒り③

頭を掻きながら桐生さんが困ったように言った。 「これはあくまでも警察の仕事で、民間人の君達を巻き込むわけにはいかないんだ。 けれども、協力してくれるなら千載一遇のチャンスというか…痛たたたっ! 継、痛いって!止めろっ!」 俺を片手で抱きしめたまま、継が桐生さんの頬を抓り上げていた。 桐生さんは、ひぃひぃ言いながら継の手から逃れ、真っ赤に跡の付いた頬を撫でながら、ブツブツ文句を言っていた。 「痛ってぇー…バカ継。思いっ切りやりやがって…」 継は俺を抱え込んで無言で桐生さんを威嚇していた。 怒りと不安と責任感と…いろんな想いが混ざった匂いがしている。 でも… 甘い切ないような匂いはなくならない。一層濃くなる。 俺のこと…ちゃんと思ってくれてる。 何だか勇気が湧いてきた。 「桐生さん、やりましょう! 根こそぎ捕まえて二度とそんなことが横行しないようにして下さいっ!」 「ダメだっ!ダメって言ったらダメなんだっ! どこの世界に大切な伴侶を危険に晒す奴がいる? 桐生っ!もし詩音に何かしてみろ。七代末まで祟ってやるっ!」 「まあ、落ち着け、継…ところで詩音君…君のチップの交換は去年だったよね?」 「あ、はい年末に。最新モデルのものにしてもらってます。」 「うーん、じゃあエベレストに登ろうが地下に潜ろうが、絶対に受信できるってことだな。 GPSは良好、問題なし。 継、ここは安全確認をしっかりして詩音君に協力してもらって、その組織を徹底的に潰そうじゃないか。 でも気になるのが…」 「俺は喜んで協力します!先生、何か?」

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