93 / 829
詩音の怒り⑨
ショックだった。
継のせいじゃない。俺自身の問題だ。
Ωという性のイヤらしい側面を目の当たりにし自覚して、俺はもう、声を出すことも動くこともできなかった。
だから『Ωのくせに』って言われるんだ。
沸々と俺自身に対して怒りが湧いてきた。
「…詩音?…詩音?どうした?
すまない、俺が無理矢理」
「違うんです…継のせいじゃない…俺の…俺のせいなんです…ごめんなさい、ごめんなさい…」
泣くつもりはないのに涙がポロポロ零れてくる。
「…詩音…」
継がそっと肩を抱いて手を握ってくれる。
その温もりに安堵して話し始める。
「俺…俺、やっぱりΩなんです。
浅ましい、この身体…逃れることはできない…悔しい、どうして…
あぁ、ごめんなさい、継…俺、俺は…」
継は俺を横抱きにして膝の上に乗せた。
「なぜ謝る?
…社内で盛って抱いたのは俺が悪かった。
お前が愛おしくてかわいくって、我慢ができなかった。すまない。
今後は…社内では手を出さないように努力する。
あ、キスとハグは許してくれ。
詩音不足で死にそうになるからな。
詩音は詩音のままでいいんだ。
お前と出会えたのは運命なんだよ。
俺はお前がΩだったことに感謝している。
お前を生んで育てて下さったご両親にも。
Ωだから と、お前自身を否定しないでくれ。
俺はそのままのお前を愛しているんだから。
清楚なお前も乱れるお前も、どちらも俺の愛してる詩音なんだ。
いろんなお前が見たい。俺だけに見せてくれ。」
髪を撫でながら、継が優しく諭すように話しかけてくれる。
あ…継から、沈丁花のような甘くて爽やかな匂いがする。
本当にこんな俺でいいの?
乱れて…あなたを求めてもいいの?
言葉にならない問いかけを心で繰り返しながら、継に擦り寄った。
継は俺の髪の毛に何度も何度もキスを落とし、抱きしめてくれていた。
好き、大好き。
本当に…心から愛してます。あなただけを。
途端に放たれる俺のフェロモンに
「しーおーん…これ以上、俺を煽るな…」
顔を真っ赤にして継が優しいキスをした。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!