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詩音の怒り⑨

ショックだった。 継のせいじゃない。俺自身の問題だ。 Ωという性のイヤらしい側面を目の当たりにし自覚して、俺はもう、声を出すことも動くこともできなかった。 だから『Ωのくせに』って言われるんだ。 沸々と俺自身に対して怒りが湧いてきた。 「…詩音?…詩音?どうした? すまない、俺が無理矢理」 「違うんです…継のせいじゃない…俺の…俺のせいなんです…ごめんなさい、ごめんなさい…」 泣くつもりはないのに涙がポロポロ零れてくる。 「…詩音…」 継がそっと肩を抱いて手を握ってくれる。 その温もりに安堵して話し始める。 「俺…俺、やっぱりΩなんです。 浅ましい、この身体…逃れることはできない…悔しい、どうして… あぁ、ごめんなさい、継…俺、俺は…」 継は俺を横抱きにして膝の上に乗せた。 「なぜ謝る? …社内で盛って抱いたのは俺が悪かった。 お前が愛おしくてかわいくって、我慢ができなかった。すまない。 今後は…社内では手を出さないように努力する。 あ、キスとハグは許してくれ。 詩音不足で死にそうになるからな。 詩音は詩音のままでいいんだ。 お前と出会えたのは運命なんだよ。 俺はお前がΩだったことに感謝している。 お前を生んで育てて下さったご両親にも。 Ωだから と、お前自身を否定しないでくれ。 俺はそのままのお前を愛しているんだから。 清楚なお前も乱れるお前も、どちらも俺の愛してる詩音なんだ。 いろんなお前が見たい。俺だけに見せてくれ。」 髪を撫でながら、継が優しく諭すように話しかけてくれる。 あ…継から、沈丁花のような甘くて爽やかな匂いがする。 本当にこんな俺でいいの? 乱れて…あなたを求めてもいいの? 言葉にならない問いかけを心で繰り返しながら、継に擦り寄った。 継は俺の髪の毛に何度も何度もキスを落とし、抱きしめてくれていた。 好き、大好き。 本当に…心から愛してます。あなただけを。 途端に放たれる俺のフェロモンに 「しーおーん…これ以上、俺を煽るな…」 顔を真っ赤にして継が優しいキスをした。

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