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襲撃⑤

継は俺の『お願い』に顔を真っ赤にして目を泳がせながら、それでも 「…くっ…ダメだ」 と拒否し続けた。 継の香りが…揺れている。 やっぱりダメかな…いや、もう一押ししたら、いけると思う! 「継、俺はこのまま怯えながら生活していくのは嫌です! 継と一緒に、誰にも邪魔されずに幸せに暮らしたいんです! 俺だけじゃない…怯えながら暮らす、Ωのためにも… だから、だから… 絶対に危ないことはしませんからっ。 犯人をおびき寄せる最後の切り札としての役だけですよ? 桐生さんも篠山さんも香川先生も付いてて下さるんですから。 だから、お願い?継…」 俺から ぶわりと強烈に甘い匂いが出ていた。 継にしか効かない匂い。 「うっ…絶対に嫌だけど…詩音、危険なことはしないと約束できるか? できるなら条件付で許可しよう。」 やった! 「継!ありがとうございますっ!」 愛おしい夫の首に両手を絡ませてしがみ付いた。 「本当に…お前って…」 呆れたような声音とリップ音が耳元に弾けた。 …えへん、おほん… 躊躇いがちな咳込む声が あっ!篠山さんっ!忘れてたっ! 全身真っ赤になりながら、慌てて継から離れようとしたが、逞しい腕に絡め取られて動けない。 「継!ごめんなさい、離して! し、篠山さんがっ!それに、事情聴取は?」 「夫夫仲睦まじいのはいいことだよね?篠山さん!」 「はい。私も愛しい(つま)に会いたくなりましたよ… 警察は私の方で対処しますから、ごゆっくりなさって下さい。」 クスクス笑う篠山さんの顔が見れなくて俯いたままの俺は、やっと力を緩めた継の腕から脱兎の如く抜け出した。

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