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尾行!?⑨
地下鉄に乗ったり、特別に許可を取った地下三階に行ったかと思うと、次は船の上で。
そうかと思えば、ヘリコプターに詰め込まれて、山頂から超高層ビルの屋上に降ろされた。
そう、地下から地上まで、言葉は悪いが連れ回されたのだ。
「うん、こんなもんだな。
詩音君、GPSは感度良好!問題なしだ。
お疲れ様!ご協力ありがとう!
もう、これでオッケーだよ。
おい継、いい加減、その怒りのオーラを鎮めろよ!
いーおーりー!
疲れただろう?ごめんね、ありがとう!
よければこのままデートしないか?」
ご機嫌な香川先生に、伊織さんがぴしゃりと怒気を含んだ強烈な一言を…
「謹んでご遠慮申し上げます。」
「えっ、そんなぁ、伊織ぃ…」
「…先生、終了したなら俺達はこれで失礼してもいいですか?
予定があるので。」
「あぁ、ごめん、ごめん。
指輪を取りに行くんだったよね?
大切な予定があるのに申し訳なかったね。
また連絡するよ。」
「詩音君、着替えはこの中に入ってるから。
お化粧の落とし方、わかる?」
伊織さんに尋ねられ、ぶんぶんと首を横に振ると
「そうだよね…ちょっと待ってて!」
伊織さんはヒールの音を軽やかに奏でてコンビニに走って行くと、しばらくして
「はい、これ!
これでそっと拭き取って…ゴシゴシ擦っちゃだめだよ?
次にこれ。番号書いてあるから、その通りにね。
お家に帰ったらちゃんと洗顔してね。」
「あ、ありがとうございます!
おいくらでしたか?」
「いいの、いいの。
今度、アノ人達抜きでご飯食べに行こう!
いろいろ話したいこともあるし。
アレ、いたらウザいから。」
ふふっと笑いながらウインクした伊織さんはとってもかわいらしくって、幸せな香りがした。
「はい!よろしくお願い致しますっ!」
デートを断られ拗ねまくる香川先生と対照的ににこやかに微笑む伊織さんと別れて、へろへろになった俺は車の中でさっさと化粧を落とし着替えて、待ちかねてうずうずしている継と一緒に、兄さんの店に向かった…はずだった。
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