113 / 829
仲直りは…①
何となく不機嫌な継の匂いを感じつつ、黙ったままの車中の空気は重くて、辛かった。
継、どうして怒ってるの?何に対して?
俺、何かした?
俺だって、しんどかったんだよ?
番のいる、お世話になってる仲人の香川先生とはいえ、初めての女装で腕を組まされて、あちこち連れ回されて。
慣れないヒールの靴を履いたせいで靴擦れして痛いし。
黙ってないで、何か言ってよ。
『お疲れ様、大変だったね』って頭を撫でてくれるだけでいいのに。
どうしてそんな不機嫌なの?
依頼を受けたのは継でしょ?
気が滅入ってもっと悲しくなってきた。
あ、マズい。
目の前がぼやけてきた。
ぽたっ
涙腺が決壊した。
一粒溢れたらもう、歯止めが効かない。
くっ…ひっく…ひっ…
必死で声を殺しているけれど、喉からくぐもった声が漏れてしまう。
目を瞑り止めようとする涙は後から後から溢れてくる…
車が停まった。
どうしよう。こんな顔で兄さんには会えないよ。
助手席のドアが開いた。
「詩音、降りれる?」
嫌だ。こんな顔で行ったら、兄さんが心配する。
勢いよく首を横に振ると、シートベルトを外されて抱き上げられた。
「嫌だっ!!」
叫びながら目を開けてみると…あれ?…兄さんの店じゃない…俺達のマンション?
え…指輪は?
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!