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小さなすれ違い②

俺が息を上げ、喘ぐ寸前で唇が離された。 あっ…なぜ? 離れがたくて戸惑いを隠せない俺に、継が欲を含んだ目でささやいた。 「今日はお義兄さんの店に行く日だから。 加減しておかないと、動けなくなったら困るだろ? それとも…抱いてもいいか?」 「…意地悪…」 一言言うのがやっとだった。 この(ひと)がほしい Ωの本性が叫ぶ。 震える手で継の両頬を包み込み、縋るような目で見つめた。 ぶわりと広がる甘い香り。 「最初から素直になればいいのに。」 そのセリフを聞いた瞬間、すっと熱が引いたような気がした。 纏っていた甘い香りが瞬時に消える。 「詩音?」 継が怪訝な顔をしている。 「…ごめんなさい…」 緩んだ腕の中から、するりと抜け出し着替えを抱えバスルームへ飛び込んだ。 熱いシャワーを浴びながら、さっきの継のセリフが頭をぐるぐるリピートする。 『最初から素直になればいいのに』 結ばれたい 繋がりたい 抱いてほしい 受け入れたい 『Ωだから、そんなことばかり思っている』と言われたようで。 悲しくなった。自分が…惨めになった。 継だから…愛おしく想う(おっと)だから… ココロもカラダも、持っているものは全て捧げ尽くしたい… 少しでも長く、一分でも一秒でも側にいたい… 求められるとうれしくて 求めることもうれしくて でも… 俺は…やっぱりΩなんだ。 いやらしい性を持つΩ。 きっと継も…そんな風に思ってるんだろう。

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