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小さなすれ違い③
Ωなんかに、Ωなんかに生まれたくなかった。
大好きな夫 に『そんなことしか考えてない』って思われるのは嫌だ。
今までも散々言われてきた。
時々蘇る悍 ましい言葉の数々。
『Ωのくせに。』
『ヤることしか考えてないんだろう。』
『結局、誰でもいいんだよな。』
『相手してやろうって言ってんだろ?言うこと聞けよ。』
確かに、あの逞しくて力強い胸に抱きしめられると、他の何もかもがどうでもよくなる。
あの匂いに自分の全てを持っていかれる。
身体だけじゃなく、心が、魂が、彼を求めて止まない。
好きだから、愛しているから。
愛してほしい。
求めてほしい。
俺の全てをあげるから、継の全ても…俺に下さい。
辛い…悲しい…もう、嫌だ…
Ωなんて…
心が悲鳴をあげていた。
悲しすぎて、涙も出てこない。
心が壊れる時って、こんな感じなのかな…
「詩音?詩音?どうした?」
継だっ!
「…あ…何でもないです。気にしないで…」
「何でもないなんてことないだろう?
お前が風呂に入ってから随分経ってる。
逆上せてしまうから出ておいで。」
「…大丈夫ですから。」
「詩音…」
拒絶の言葉に諦めたのか、継が立ち去るのがわかった。
チクリと胸に何かが刺さっている。
戸惑う継の香り。
継、あなたは心から、俺を望んでくれていますか?
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