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小さなすれ違い④

それからしばらくして身支度をして出て行くと、継はソファーで新聞を読んでいた。 何をやっても格好いい… 「詩音!具合でも悪いのか? すまない、気付いてやらなくて…」 「大丈夫です。どこも悪くないから。」 ふるふると首を横に振った。 継は何か言いたそうだったが 「朝ご飯食べよう!もうできてるから。」 「支度させてしまってごめんなさい。 ありがとう、継。」 相変わらず何か言いたげな継だったが、何かを問い詰める訳でもなく、二人とも黙って食事を済ませた。 二人の間の微妙な空気。 継は俺の匂いの違和感に気付いているはず。 いつもの甘い香りは綺麗サッパリ消え、その代わりに悲しみと不安と諦めと…負の匂いが立ち込めている。 止めようとしても止められない。 継からはいつもの甘い香りと、ただ戸惑いの感情が流れてきていた。 俺は淡々と食器を片付け、洗濯や掃除をして、継が話しかける隙を与えないように、くるくるとやたら動き回っていた。 継は話すきっかけを失ったまま、黙って俺を見つめていた。 いつもの半分の時間で家事が終わり、頃合いを見計らって継が話しかけてきた。 「詩音、落ち着いたら出掛けるよ。 俺の準備はできてるから、いつでも声を掛けてくれ。」 「…はい。」 あぁ、こんな気持ちで出掛けなくちゃならないなんて。 それも、兄さんのお店に。 気乗りのしないまま、少し洒落た服に着替えて、車に乗り込んだ。

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