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小さなすれ違い⑥
ひらひらと左手を動かして表も裏も眺めてはご満悦な継の横で、俺は黙ったまま右手に収まった指輪を見つめていた。
「詩音?どうかしたのか?
サイズ、それでいいはずなんだけど…」
「あ、ううん!大丈夫だよ、兄さん。
本当にありがとうございました。」
慌ててぺこりと頭を下げた。
「お義兄さん、本当にありがとうございました。
式の日取りとか詳細は後ほど、ご連絡差し上げます。」
「君達の予定に合わせるから。決まったら教えてね。
詩音、みんな楽しみにしてるからね。」
「はい。義弘さんにもよろしく伝えて下さい。」
「あぁ、わかった。アイツ、詩音のこと、本当の弟みたいに思っててさ。
時間空いたら、遊びに行ってやってよ。」
「はい!今度お邪魔します。」
何度もお礼を言って店を出た。
クルマが走り出して、ホッと一息ついた。
慣れない指輪の感覚がくすぐったい。
…兄さん、俺が変なの気付いてたかも。
「詩音、昼はどこかで食べて行こうか。」
「あ、でも…冷蔵庫に残り物もあるので…帰りたいです。」
「ん…そうか、わかった。」
継、ごめんなさい。
多分、お祝いの意味もあったんでしょう?
でも、俺、今そんな気分じゃない。
「買い物はいいのか?」
「はい。まだありますから。」
「お茶でも飲んでいくか?」
「さっき、兄さんのお店でコーヒーご馳走になりましたから。」
ことごとく継の提案を打ち砕いている。
ごめんなさい。
俺、早く一人になりたい。
あなたといると…辛い。
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