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小さなすれ違い⑦

行きと違うのは、二人の指に収まった誓いの印が増えたこと。 家に着くと、悲しみを纏ったまま、うれしいのに変な疲れがドッと出た。 先にソファーに座っていた継が俺を呼んだ。 「詩音?ちょっと来てくれ。」 びくびくしながら側に行くと、ポンポンとシートを叩かれ、横に座るようにと促された。 「詩音、どうしたんだ? 思っていることはちゃんと伝え合おう。 黙っていてはわからない。 ただ、お前が辛い、悲しいと思っていることはわかる。 きっと、俺のせいだよな? でも、言ってくれないとわからないよ。 このままじゃ俺は嫌だ。 頼む。教えてくれないか?」 戸惑いながら継を見た。 優しい瞳が揺れている。 甘やかな香りが俺を包み、棘の刺さった心を癒してくれる。 意を決して口を開いた。 「…あの時…継が言ったんだ。 『最初から素直になればいいのに。』って。 それを聞いた瞬間、心が冷えていった。 『Ωだからそんなことばかり考えているんだろう』って言われた気がして、悲しくなった。 Ωの自分が…心底嫌になった。 昔…言われた罵詈雑言も思い出してしまった。 確かに、そうかもしれない。 でも、俺は、継しか…継だけしかいらない。 継に求められて愛されて、俺も継を求めて愛して…俺はそれだけで本当にうれしかったんです。 身も心も命も何もかも全部、俺の全てをあげるから、継もくれますか? 継は…こんなΩの俺でも心から求めてくれますか? 継は…こんないやらしいΩでも愛してくれますか?」 一気に吐き出すように言葉にすると、今度は涙が溢れて止まらなくなった。

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