139 / 829
危険な匂い②
みんな出払っていないし、ここで済ませよう。
お茶を沸かし一息ついて、食べ始めた。
何となく味気ない。
継と一緒になってから、ほとんど一人で食事をすることはなくなった。
俺の大したことのない料理にも、継はいつも大袈裟なくらい褒めてくれる。
「美味い!」
「俺は毎日こんな美味いご飯を食べれるなんて幸せ者だ。」
「詩音、俺の身体を考えて作ってくれてるんだな、ありがとう。」
そんな言葉の一つ一つに『この人の役に立ってる』『喜んでもらえてる』という、うれしさがこみ上げて、もっと美味しい物を、もっと身体に良いものを…と頑張る糧になっていた。
継がいない。
寂しい…
早く、継に会いたいな…
そっと跡の付いた頸を触ってみる。
継の番であるシルシ。
それを撫でると、継が触れてくる感触と香りを思い出して、継を誘う香りがふわりと湧き出した。
マズい!
会社で盛るような真似はダメだ!
窓を開けようと立ち上がった瞬間、ハッとした。
この匂いは…
危険だ!
どこかに逃げないと!
匂いで、本能で、危険を感じていた。
部屋を出ようとドアに手をかけた途端にドアが開かれ、目の前に見知らぬ男達が三人立ち塞がった。
ひくっ と喉が鳴る。
コイツらは敵だ!
すり抜けて逃げようとしたところを捕えられ、鼻と口をハンカチで覆われた。
そして…俺の記憶は…途絶えてしまった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!