154 / 829

脱出③

「黙れっ!近付くな!」 「いい子だからじっとしてろよ。」 宮原がニヤつきながら、じりじりと間を詰めてくる。 気持ち悪すぎる臭いが部屋中に充満していた。 吐きそうだ。頭痛も酷い。 いや待てよ…もう少し…もう少し近付けば、足が届く。 そうすれば…蹴り倒す自信はあった。 護身用と称して、少しばかり古武術と空手をかじったことがあったからだ。 こんな優男一人ならば何とかなるかも。 怖がって動けないフリをして腰を落とし、タイミングを計っていた。 案の定、気を許した宮原が近付いてきて、油断した瞬間を見逃さなかった。 ガツッ!ガシャッ!! バーーーン!! 伸ばしてきた腕を蹴り払い、その勢いで落ちた注射器を踏み潰すと、見る間に中身は絨毯に染みていった。 立て続けに勢いを付け、首に回し蹴りを食らわせると、宮原は壁に吹っ飛んで行った。 頭でも打ったのか、宮原はピクリとも動かない。 やった! とりあえず薬は阻止した。 おそらく今の様子を見ていたであろう、さっきの男達が来るはずだ。 俺は咄嗟にドアに駆け寄ると、死角になる壁側に張り付いた。 「先生!?」 飛び込んできた男達が宮原に駆け寄る隙に、そっと外へ抜け出した。 外からしか掛からない鍵を施錠すると、一目散に出口へ向かった。 隣の部屋からは騒ぎ声が聞こえていた。 廊下に飛び出すと非常階段を探す。 あった! もつれそうになる足を必死で動かして、階段を駆け降りる。 とにかくホテルの外へ! 上から怒鳴り声と追いかけて来る足音が聞こえてきた。 急がなければ!!

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!