155 / 829

脱出④

両手が使えない分、バランスも悪くなる。 右側に身体を捻り、手摺りに掴まりながら必死で駈け降りる。 ? どこからか、継の匂いが… 6F… 5F… 途中の階のドアが開くんじゃないかと、気が気でなかった。 時折転びそうになるが、何とか持ちこたえた。 少しでも足止めをくらうように、バックヤードの荷物を床に倒し撒き散らしながら、走る。 4F… 息も心臓も跳ね上がり、フルマラソンを走り切る寸前のランナーのように、喘ぎながらひたすら1Fを目指す。 3F… あと少し! 2F… 「おい!早くしろ!逃すな!」 「人目につく前に早く!」 複数の足音と怒号が聞こえる中、やっと1Fのドアに辿り着いた。 ここを開ければ! 逃げ切れる!! ドアノブに飛びついた。 ガチャ え? ガチャガチャガチャ うそ…うそだろ? どうして? どうして鍵が掛かってるんだ? 非常口だろ? 消防法どうなってんだ? 焦る俺の背後に男達が迫ってきた。 踊り場まで降りて来ると、俺が固まっているのを見るや 「手間かけさせやがって… 鍵掛かってんのか。残念だったな。 もう、これで逃げられないぞ。」 手を伸ばし捕まえようとした男に、他の奴が 「手ぇ出すな!高額の品物だぞ! 怪我でもさせたら、俺達の首が飛ぶ。 どうせもう逃げられない。 挟み撃ちにすればいいんだ。 おい、誰か外から鍵開けてこい!」 あぁ、もうダメだ… 二度と継には会えない。 こうなったら舌を噛み切ってでも… ドアを背にして睨み合いが続いていた。 継の匂いがだんだん濃くなってくる。 怒りと悲しみと、俺をひたすらに思う匂いが… うそ…そんな、まさか…近くにいる!? と、突然 カチャッ と鍵が開く音がして…

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!