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脱出⑦

地下駐車場から階段を駆け上がり、フロントまで行くと 「非常階段はどこだっ!?」 「…あ、あちら右手奥になります。」 ビビる受付嬢に教えてもらった通りに非常階段を目指して真っしぐらに走り続けた。 どこからか…詩音の怯えた匂いがしてくる! 詩音が近くにいるっ! フロントの受付嬢も、ランチに来ている客も、何事かと視線が追ってくる。 息を切らしてたどり着いたドアノブを回すと、何ということか鍵が掛かっていた。 『非常』の意味ないじゃないか。 腐ったホテルだ。 と言うことは…中からしか開かない? 俺は急いでフロントに駆け寄ると大声で捲し立てた。 「非常階段の鍵を貸せ!早く! 命がかかってんだ!急げ!早くしろ!」 ひいっ と喉の奥で叫んだ受付嬢は、慌てて後方の事務室に引っ込んだ。 変わって出てきた男が 「お客様、何か」 と言い掛けたのを遮って 「ごちゃごちゃ言ってないで、早く鍵を貸せっ! 俺の大事な(つま)が襲われてるんだ! どうでもいいから早くしろーっ!!!!!」 「ひいっ!は、はいっ!只今お持ちしますっ! 少々お待ちを…」 「待ってられるか!すぐだっ!」 「はいっ!」 震える手で差し出された鍵を引っ掴んで、非常階段へ戻った。 急げ! 詩音を助けるんだ! 中から微かに怒鳴り声がする。 隙間から漏れてくるのは、愛おしい詩音の怯えた恐怖の匂い。 詩音!!待ってろ!今助けてやる! はやる気持ちを押さえて、鍵穴に差し込みドアを勢いよく開けた…

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