160 / 829
脱出⑨
伊織さんは俺の頭を撫でながら
「怪我は?何もされてない?大丈夫?
あぁ…無事でよかった…今、この手錠外してあげるからね!」
俺は伊織さんにされるがままに、ようやく自由になった手首を摩りながら尋ねた。
「伊織さん?どうしてここに?警視って…」
伊織さんは、うふふっ と悪戯っぽく笑うと
「うん。桐生君の上司に当たるんだ。
俺はΩだから…いつもはデスクワーク専門なんだけどね。
今日は居ても立っても居られなくって、陣頭指揮取ってたんだよ。
あ!ごめん、継君…詩音君お返しするね。」
継の不穏なオーラを感じたのか、伊織さんは俺をそっと継に戻すと、継は二度と離さないとでもいうように、ガッチリと抱え込んだ。
「…いくら伊織さんでも…あんまりだよ…
俺の詩音なのに…
あぁ詩音、詩音…無事でよかった…」
ぽろぽろと大粒の涙を零し、俺にキスしながらブツブツ文句を言う継に、伊織さんは
「ごめん、ごめん!」
と笑いながら謝っていた。
きっと悪いなんてこれっぽっちも思ってないんだろう。
他人の目の前でキスされている羞恥心なんかどこかへ行って、俺も泣きながらその行為を心地よく受け入れていた。
と、伊織さんが、突然インカムに向かって
「そうか!よくやった!
現行犯逮捕!
向こうの方も?よし、それぞれ連行してくれ。
今から忙しくなるぞ!
マスコミ対策の方も頼んだよ。」
俺達の方に向き直ると、サッと敬礼して
「お二人の多大なるご協力により、犯人を全員無事に逮捕することができました。
本当にありがとうございました!
詩音君、無事で…本当に無事でよかった…」
伊織さんの目に涙が光っている。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!