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安堵②
改めて目の前の男 を見上げる。
彫りの深い美しい顔が悲しげに歪められている。
唇が震え、目尻には薄っすらと涙が溜まり、今にも溢れそう。
ふわりといつもの継の香りが俺を包んでいた。
俺は両手をそっと彼の頬に当てささやいた。
「…継、ただいま。助けてくれてありがとう…心配かけてごめんなさい。」
彼の顔がくしゃりと歪み、涙が溢れた。
詩音…
詩音!
詩音!!
詩音!!!
詩音!!!!
詩音!!!!!
俺の名を呼び号泣する継に、ぎゅうぎゅうと腕の中に取り込まれ、やっと愛しい夫の元へ帰ってきたのだと実感した。
様々な感情の匂いが、継から雪崩れ込んでくる。
全身から巻き起こる匂いから。
触れ合う肌から。
涙に濡れた瞳から。
口内を侵し尽くす舌と唾液の味から。
甘く掠れた声から。
五感全てで継を感じる。
継、継…
もう会えないと覚悟したけれど…あなたに会えて…よかった…
俺は…俺は…
継にしがみ付いて、しゃくり上げて泣く俺を 継も泣きながら抱きしめていた。
「…継君、詩音君、お取り込み中申し訳ないけど…」
遠慮がちな伊織さんの声が聞こえた。
俺はまだぼんやりとしたまま伊織さんの方に顔を向けた。しっかりと継に抱きとめられたまま。
「詩音君の手首の傷の手当てをしなくては。
念の為に全身も。詩音君、いいね?」
「詩音、いいか?」
俺は異論なく頷いた。
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