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安堵③
パトカーのサイレンが鳴り響き、マスコミがごった返す、規制線の張られたホテルを後にした。
伊織さんが運転席、香川先生は助手席に、そして俺は後部座席で継に肩を抱かれ、ぴったりと寄り添っていた。
車内では誰もが無言で、時々入ってくる無線が未だ緊迫感を知らせていた。
ほんの数時間前は生きた心地もしなかったのに、今はただ、目を瞑り心地いい継の匂いに癒されて車に揺られていた。
Ω専門の病院で、手首の擦過傷の手当てを受けた後、体の隅から隅まで検査を受け、『無事』が確認された。
「とにかくゆっくりと休んで…事情聴取は詩音君が落ち着いてからにするからね。
継君、後のことよろしくお願いします。」
「はい、またこちらから連絡させていただきます。
香川先生、伊織さん、本当にお世話になりました。
ありがとうございました!」
「俺がGPSのテストをしたせいで、結果的に君達を巻き込んでしまったのかも…悪かった。
申し訳ない…」
「でも、先生?それで事件が解決したなら…俺は『役に立った』ってことですよね?
これでΩが拐われて番から引き離されるようなことはないんですよね?
…それに、俺はこうやって無事に継の元に帰ってこれたんですから…
助けて下さってありがとうございました。」
「詩音君…ありがとう…」
香川先生が涙ぐみながらぺこりと頭を下げた。
伊織さんは継に何かそっと耳打ちすると
「今から徹底的に関わった奴らを叩き潰すから。
とにかくゆっくりと何も考えずに心も身体も休めて!」
さっきから思ってたけど、伊織さんがすっごく男らしい。男なんだから当たり前なんだけど、いつもの「うふっ」とか「えへっ」とか、たおやかで清楚な伊織さんはどこにいったんだ?
Ωで警視なんてすごくない!?一体、この人は何者なんだろう…
クエスチョンマークが浮かぶ中、イケてる伊織さんは、スーツ姿にメロメロで崩れっ放しの香川先生を引き連れて去って行った。
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