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トラウマ⑤side :継
ん…寝ぼけ眼で手を動かす。
触れるのは冷たいシーツの感触のみ。
「詩音っ!?」
大声を出して辺りを見回すと、かちゃかちゃとキッチンから音が聞こえてきた。
ホッとして起き上がり、詩音の元へ向かった。
「詩音、おはよう。」
「おはようございます。」
抱きしめて鼻先にキスをするが、詩音からは悲しみの匂いしかしない。
「詩音、愛してるよ。」
もう一度、鼻先と唇にキスをしてカウンターを見ると、もう二人分の弁当が出来上がっていた。
「美味そうだ。昼が楽しみだな。」
にこりと微笑んだ詩音。
でも、その笑顔はぎこちない。
朝食と片付けを済ませ、少し空いた時間は詩音を横抱きにして新聞を読んだ。
髪を撫で、愛の言葉をささやいて…
あぁ、もうこんな時間か…
運転中も詩音の手を繋いでいた。
俺の思いよ、全て詩音に届け。
お前を愛してるんだ。
傷付けてごめん。
俺を愛してくれ。
取り繕っても仕方がない。
渾々と溢れる想いとフェロモン。
詩音の顔はピクリとも動かない。
そうだ。
明日の休みはどこか静かな所へドライブにでも行ってみようかな。
海?いや、温泉もいいかもしれない。
「詩音、明日、どこか温泉に行かないか?
のんびりゆっくりとしよう。」
「…継がいいなら、それで。」
「そうか?じゃあ、近場で良さそうな所を予約しよう。」
乗り気でない返事と無表情。
ほんの少し曇った顔は何を考えてる?
環境が変われば、気持ちも変わるかもしれない。
温泉に浸かってまったりと過ごすのもいいな。
早速調べるとしよう。
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