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トラウマ⑥side :継

篠山さんの何とも言えない視線を感じつつ、その日も無難に仕事をこなしていた。 「社長…私は何とお言葉をかけて良いやら…」 「篠山さん…いいんだ。全ては俺のせいだから…」 「こうなったら長期戦ですよ。うちもそうでした。」 「え?篠山さんも?」 「はい。お恥ずかしながら。一週間… ただひたすら愛の言葉をささやいて、抱きしめて…あれは辛かったですねぇ。 でも、一番辛いのは本人なんです。 愛してほしい人に否定された、拒否されたという思いは案外根深く残るらしくて… 生活そのものは普通なんです。 家事もできるし仕事もできる。 ただ、その想いが…」 がっくりと項垂れた俺は 「俺のせいだから…伝え続けるしかないので…」 「そうですねぇ… そうだ!社長!今暇ですから、水曜までお休みされたらどうですか? 明日から水曜まで…五日間! 社長ものんびりしてきて下さい。 後のことは私達にお任せを。」 そんな話をしていると、中田部長がやってきた。 「継!今いいか?大変だったな…もう、落ち着いたのか?」 「あぁ。大丈夫だ。みんなのお陰で…本当にありがとう。 それよりどうした?珍しいな。」 「うん、実は、詩音君のことだが…」 「詩音?詩音がどうかしたのかっ!?」 「いや、うちの柚月が、昨日俺を迎えにきた時に詩音君に会ったそうなんだが、何だか元気がなくて、いつもと違うと心配しててな。 まぁ、あんなことがあった後だから仕方がないと言えば仕方がないのだが… 今朝も泣き腫らした顔で出社して…喧嘩でもしたのか?」 俺は中田部長にも今の俺達の様子を話した。 はぁっ とため息をついた彼は気の毒そうに 「詩音君は人一倍繊細だからな…愛してやまないお前の言葉に傷付いたんだろう。 柚月に言ってたそうだ。 『子供がいる生活ってどうなんですか?』 『Ωでよかったって思いますか?』って。」

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