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いざ温泉⑦
詩音に気取られないように、さり気なく腰の位置を変えた。
「詩音、見てごらん。
朝日を浴びて川面がキラキラ光ってる…綺麗だな…」
「…はい、綺麗ですね…」
胸に重みが増した。
先程よりも濃くなった香りがふわりと鼻先を擽る。
えっ!?詩音の…匂い?????
少し距離があったはずの詩音と俺がぴったりとくっついている!!!!!
詩音が、詩音が…俺にもたれかかっているっ!!!!!
あぁ…詩音…
うれしすぎて泣きそうだ…いや、涙が…目の前の風景もボヤけてきた…
心臓も、ばくばく跳ね始めた。
「詩音…愛してるよ…」
愛おしくて堪らずぎゅうっと抱きしめ、思わず口元から溢れた。
俺からもフェロモンが噴き出している。
しばらく間を置いて
「継…俺も…愛して…います…」
小さな声で詩音が…
「詩音!?詩音…あぁ…本当に!?
頼む、顔を見せてくれっ!!!」
くるんと詩音を正面に向き直し、顔を覗き込んだ。
詩音は頬を染めて 、潤んだ目で俺をじっと見つめている。
「詩音…俺の、俺の匂いがわかるか…?」
恐る恐る尋ねると、こくんと首を縦に振り綺麗な顔で微笑んで
「…はい、いつもの…継の…」
それだけ言うと、ぼふっと俺に抱き付いてきた。
辺り一面に俺達のものすごい匂いが交差している。
「くっ…詩音っ…詩音…」
嗚咽で言葉にならなかった。
恥ずかしげもなく愛する夫 を抱きしめて、大声で泣いた。
詩音も泣きながら俺を抱きしめている。
戻ってきた。
帰ってきてくれた。
俺の元へ。
お帰り…詩音。
俺の、愛おしい、夫 …
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