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なくなった香りside:詩音②
部屋に連れて帰られ、上着を脱ぎキッチンへ向かう。
とにかく継のご飯を作らなければ。
自分が作るという継の申し出を断り、精一杯の笑顔を向け、手早く支度をした。
いつものように向かい合って座っていたが…辛い。
二口ほど食べて箸を止めた。
継が何か言いたそうな雰囲気で俺を見ているが、別れ話は今は聞きたくない。
嫌だ。
全身で拒否する。
どうしてなんだろう。
俺からもフェロモンが出ないのはなぜ?
こんなに継のことを思っているというのに。
やはり、気を失ってい間に アイツらに何かされたのだろうか?
でも、アイツらの供述からも、検査してもらっても『無事』だと言われた。
心配するようなことは何もないと。
ここにいてもいいのだろうか。
匂いが出ないほどに嫌われているのに、一緒にいていいのだろうか。
俺は…どこに行けばいい?
実家?
いや、それはダメだ。
あんなに喜んで俺を送り出してくれた家族の所には戻れない。悲しませたくない。
ホテル?
貯金はそれなりにあるけれど、そんな贅沢はできない。
アパートでも借りる?
一人暮らしをするΩには保証人が必要だ。
誰に頼めばいい?
纏まらない考えが、ぐるぐると頭を回る。
継が食べ終わったようだ。
よかった…全部食べてくれてる。
せめて家のことはさせてもらおう。
急いで片付けを済ませ、お風呂の用意をした。
継に先に入ってもらおうとしたのに、やることがあるから後で とやんわりと断られ、申し訳ないけど先に入ることにした。
シャワーを浴びても湯船につかっても、後から後から涙が溢れて止まらない。
継に嫌われた
継に嫌われた
そのことしか頭に浮かばない。
ぐしぐしとしばらく泣いていたが、逆上せそうで、やっとの思いで風呂から上がった。
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