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なくなった香りside:詩音③

鏡に映るのは、真っ赤に泣き腫らした目の俺。 また…泣けてきた。 と、そこへ継が飛び込んできた。 え?どうして? 継はバスタオルを奪うと、そっと俺の身体を拭き始めた。 突然の行為に最初は抵抗したものの、縋るような目で見つめられて諦めた。 嫌いな俺にどうしてこんなことするの? その手つきは限りなく優し過ぎる。 髪の毛までブロウすると、今度は横抱きにしてベッドまで運ばれた。 俺の思考回路は完全に停止している。 「俺も入ってくるから。 そうしたら、抱きしめ合って寝ような。」 優しく頭を撫で、額にキスをしてくれた。 ドアがパタンと閉まり、横たえられたまま俺はパニックになっていた。 何で?どうして? 俺のこと、フェロモンも出ないくらいに嫌いなのに、どうして優しくするの? あぁ…きっと…社内にも社外にも入籍したことも公にしているから、直ぐには別れられないから… 仮面夫夫として暫く過ごすつもりなのか… 継のご両親が帰国したら、結婚式もするつもりなんだろうか? 俺は、俺はどうしたらいいんだろう。 悶々としていると継が戻ってきた。 布団にするりと潜り込むと背中から抱きしめてきて「お休み、詩音。愛してるよ。」と言い続け、頭にキスをしてきた。 キスされてそれを聞いたら、ますます辛くなってきた。 また涙が零れ落ちる。 声も出せず静かにただ流れる涙。 継がぼそりと呟いた。 「『番拒否症候群』…詩音、ごめんな…」 『番拒否症候群』? 聞きなれない言葉を不審に思いながら、そのうち、段々と俺の思考は闇に落ちていった。

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