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なくなった香りside:詩音⑨
継が…泣いている。
継が俺を抱きしめて大泣きしている。
俺も、継に思い切り抱きついて一緒に泣いた。
しばらく泣いた後、継は「こうしちゃいられない」と呟くと、俺を抱きかかえ脱衣所へ走り込むと、バスローブでくるんで水を飲ませてくれた。
そして俺の前に跪いて手を取ると言った。
「詩音。抱きたい。抱かせてくれ。
お前の中に入らせてくれ。」
俺が、そんなこと一々聞かないでと言うと、噛み付くようにキスされてベッドへ連れて行かれた。
いつものように混じり合うフェロモンが、今日は特別に感じる。
全く匂いの感じられなかったあの数日間を取り戻すかのように、濃厚で甘ったるい匂いがお互いの身体から噴き出して、その匂いだけで頭が飛びそうになる。
早急に抱こうとする継を制して、これだけは…と聞きたいことがあった。
「継…俺は…あなたにずっと触れていたい、触ってほしい、抱きたい、ずっと抱いていてほしい…
こんないやらしいΩだけど…俺を愛してくれますか?
もし…子供ができたら…その子がΩでも…愛してくれますか?」
継は…「詩音がいい」「授かりものだからできたら、うれしい」「Ωなら…お前の両親がされたように、大切に守り育てよう。お前に似たら溺愛する自信がある」と言ってくれ…
『俺は『こんなΩのお前』を誰よりも愛してるんだ。
お前も『こんなαの俺』を愛してくれてるんだろう?』
と…そして…雄のフェロモンを振り撒き脈打つ、見事な程にそそり勃つ楔を見せつけて
『お願い…キスして?』
ゴクリと喉が鳴った。
継が…俺を求めている。狂おしいほどに。
哀願するような切ない瞳で見つめられ、考える間もなく、俺を求める匂いを振り撒くそれに手を伸ばした。
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