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なくなった香りside:詩音⑩
継は一瞬驚いたようにびくりと震えたが、俺は戸惑うことなく、愛おしい夫のものに両手を添え口付けた。
その後は…
夢中で口に含み舌を這わせ、ひたすらに愛しい夫の分身を愛し続けた。
勢い余って顔に出され、継はすぐに俺の顔を綺麗に洗ってくれたが、俺は継の濃い匂いに包まれ満足し興奮していた。
気持ちの欠けた擦れ違いの数日間を埋め尽くすように、求め求められ…激しく抱かれた。
最中、何を口走っていたのか、どんなに乱れていたのかも覚えていない。
ただ、継が耳元で『愛してる』と熱っぽくささやく声と、舞い踊るフェロモンと纏わりつくお互いの想い、身体中を支配する快感に翻弄されたことだけを感じていた。
久し振りの心地よさに包まれ、ふと目を開けると…
「継…」
「詩音、激しくしてすまなかった…大丈夫か?」
「…はい。」
すりっ と、匂いがダダ漏れの継の胸に擦り付いた。
この匂い…大好き。
「詩音…愛してるよ。」
答える代わりに、ちゅ と心臓の辺りにキスをする。
この男は俺のものだ。
誰にも渡さない。離れたくない。
知らず知らず生まれた独占欲。
Ωの俺にもこんな感情があったんだ。
なぜかおかしくて笑う俺を継は不思議そうに頭を撫でながら
「詩音?何がおかしいの?」
ふるふると首を振って、胸にくっ付いたまま答えた。
「こんなにあなたのことを独占したいと思うなんて…
俺にもこんな感情があったと思うと、なんだかおかしくなって」
言いかけた俺の唇を継がキスで塞いだ。
身体中を撫で摩られ、まだ燻っていた芯に火が付く。
継の思うままに煽られた身体からは甘い匂いが噴き出して…再び俺達は…一つになった。
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