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右京さん②
お義母さんの優しい匂いに包まれて、やっと落ち着いた俺は
「泣いてばかりでごめんなさい」
と謝って、そっと身体を離した。
俺の肩に両手を添えて、目をじっと見つめていたお義母さんは
「泣いて落ち着くならどれだけでも泣けばいいよ。
俺も…右京君もそうしてる。
でも、一人で泣いちゃダメ。
継がいない時は、ここにおいで。泣き止むまで一緒にいるから。」
「お義母さん…」
と、その時、バタバタと右京さんが飛び込んできた。
「あー、もう、やってらんないっ!」
「おや?どうしたの?右京君。」
「“いつものやつ”始まった!
あー、もう、あの部屋中どピンクで目がチカチカするっ!
今まで聞かされ役だった継君が、ここぞとばかりに力説してさ…それに対抗して潤が反撃して…いつにも増してお義父さんまでヒートアップしてるからさ、もう、たーいへーん!
ねぇ、お義母さん、俺もこっちで手伝うからエプロン貸して?」
あははっ と大笑いしたお義母さんはエプロンを取りに行ってしまった。
「ふうっ…あのね、“いつものやつ”っていうのはね、単なるノロケなんだよ!
『うちの嫁がいかにかわいくて最高か』っていう、バカ夫の自慢大会!
独身だった継君は今まで散々お義父さんと潤に聞かされ続けてさ、それが詩音君っていう愛する伴侶を得たもんだから、一気に反撃に出たって訳。
あー、もう…部屋中ピンクのハートが飛びまくってるよ!
甘ったるい吐きそうな匂いが充満してるんだろうな…詩音君がいたら鼻が曲がるよ、きっと。
詩音君…継君に滅茶苦茶愛されてるんだね!ふふっ…」
意味深な笑い…
継、一体何を話してるんだ?
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