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家出人④

「親父だ…」 「いないって言って!」 ポンポンに腫れた目で睨まれて、継がビビっている。 「…わかったよ。『いない』って言うぞ。 はい、もしもし?何だよ、こんな朝早くから。 …はあ、お袋が家出した?何で? …は?誤解? …俺んとこ?(チラリとお義母さんを見るが、激しく左右に首を振るのを見て)来てないけど。 …兄貴ん家?行くわけないじゃん。右京さん、妊夫(にんぷ)だぜ? 心配かけるようなことする訳ないじゃん。 絶対兄貴に電話するなよ! 親父、何やらかした? …ふえっ?…はあっ?知るか、そんなの。 …え?警察?捜索願い?ちょっと大袈裟だよ。 少し様子見ろよ。 …俺も探してやるから。…うん、…うん。 一回切るぞ。」 「…継、お義父さん、何て?」 「パニクってるから、何言ってるのかわかんない。 『誤解だ、誤解だ!』しか言わないから。 お袋…親父、かなりテンパってるぞ。 あんな親父、初めてだよ。 警察は…マズイな…。」 と、また着信が。 「…はい。もしもし? …あぁ?今から?何で俺ん家? …わかった…はいはい。」 「親父、取り敢えずこっちに来るって。」 「断ってよっ!あの人がここに来るなら、俺は出て行くっ!」 「お義母さんっ!ダメっ!出て行っちゃダメ! お義父さんが『誤解だ』って…ちゃんと話聞きましょう? 俺達、お義母さんの味方ですからっ!」 お義母さんの目から、また涙が溢れてきた。 「詩音君…」 零れ落ちる涙は、後から後から止め処もなく流れ落ちる。 俺は胸がきゅうっと詰まり、思わずお義母さんをそっと抱きしめると、二人で大泣きした。 ピンポーーーン

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