261 / 829
家出人⑤
「親父にしてはえらく早くないか?」
インターホンに向かった継の、素っ頓狂な声が響いた。
「右京さんっ!?こんな時間にどうしたの?」
「ごめんなさい…」
「とにかく入って!今開けるから。」
俺はお義母さんを抱きしめたまま
「継?右京さん?どうしたの?」
「…わからない…とにかく上がってもらおう。」
間もなく右京さんが現れた。
こちらも…大きなトランクを持って。
まさか…右京さんも家出?
「詩音君、ごめんね…えっ!?お義母さんっ!」
「右京君!?どうしたの?」
「潤と喧嘩してしばらくお家に泊めてもらおうと思って行ったら、“かーちゃんがいない”ってお義父さんが大騒ぎしてて。
きっとお義父さん、お義母さんに何かやったんだと思って、可哀想だけど無視して置いてきちゃった。
お義母さん多分継くんとこだと思ったから、直行でこっちにきたんだ。」
「右京君も…まさか、家出?」
「え…お義母さんも?」
携帯の着信音が。
「…兄貴だ…マイクにするよ…ポチッとな。」
大音量で響くお義兄さんの泣きそうな声。
「けーい!助けてくれぇ!
右京が、右京がいなくなったぁ!
どーしよう!?警察?警察に言えばいい?」
右京さんも首をぶんぶん横に振って拒絶。
「…落ち着け、兄貴。何やらかした。」
「右京がかわいくって、子供できたのもうれしくって…ちょっとエッチに持ち込もうとしたら、全力で拒否されたから喧嘩になっちまって…
右京に何かあったらどうしよう…俺、生きてられないっ!
なぁ、一緒に探してくれよ!
俺、今からそっちに行くから!
な、頼む、継!」
プーッ プーッ プーッ
一方的に切られた電話。
お義母さんを挟んで反対側に座ってる右京さんは顔から火を噴きそうに真っ赤になっていた。
「…兄貴も来るのか…」
継が天を仰いだ。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!