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家出人⑥

それから数十分後… L字型のソファーの長い方に、お義母さん、右京さんが横並びに座り、継と俺は短い方へ。 テーブルを挟んでお義母さん達の前に、少し左頬の赤いお義父さんと、お義兄さんが小さくなって正座している。 「親父、一体どういうことか説明してもらおうか。 “礼二”って誰だ?」 継が単刀直入お義父さんに言い放った。 その名を聞いた途端に、お義母さんの身体がぴくりと跳ねた。 はぁっ…と切なそうなため息をついたお義父さんは 「はあっ…サプライズにするつもりで内緒にしてたのに…ダメになっちゃった…」 「「「「「サプライズ??」」」」」 五人の声が綺麗にハモった。 「うん。 来月さ、かーちゃんの誕生日じゃないか。 かーちゃんの好きな花はバラだろ? 一番美しい深紅のバラを年の数だけ手に入れようと思って… 礼二…そいつは、大学の同級生の息子でな、最近結婚して花屋を開店したんで、頼まれて贔屓にして使ってやってるんだ。 ほら。駅前に洒落た花屋ができただろ? そこだよ。 それで品種がありすぎるもんだから俺にはわかんなくって、アレコレ相談して、かーちゃんに似合うバラを探して手配して、やっと入荷の目処が立ったとこだったんだよ。 バレたらサプライズにならないじゃないか。 だから、自宅にいる時は電話してくるなって釘刺しといたのに。」 悔しがるお義父さん。 ポカーンとする一同。 継が口を開いた。 「じゃあ、浮気なんて…」 「馬鹿野郎! かーちゃん以外に俺が手を出すとでも思ってんのか? 俺はかーちゃんだけだって、いつも言ってるじゃないかっ! 真澄…俺のこと、信じられないのか?」 「パパ…ごめんなさいっ…」 お義母さんが両手で顔を覆って泣き出した。 俺達は呆気にとられ、黙ったままその場を動けない。

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