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家出人その2④

継に抱きしめられ、継の背中に手を回して抱きしめ返していた俺は、ぐすぐすと鼻をすすりながら、幾つもの視線を感じて振り返ると… いやぁーーーっ! お義母さん達っ! こっ、ここ、継の実家ぁっ! お義父さんにお義母さん…お義兄さん、右京さん… 笑いながら俺達を見ている。 やだぁーっ、恥ずかしいっ! すぐに離れようと、背中に回していた手を解き、継の胸を押して突っ張ってもビクともしない! 「こら、詩音、暴れるな。」 「おやおや、詩音君、いいんだよ、そのままで。」 お義兄さんに揶揄うように言われて、ますます身体が火照り、顔から火が出そう… 「どれだけ心配したと思ってるんだ。 もう少し詩音を補充させろ。」 「…ごめんなさい…」 抵抗するのを諦めた俺に、継は安心したのかますます抱きついてくる。 「継、詩音君息できなくなっちゃう。 ほら、二人ともこっちにおいで。」 お義母さんに諭されて、継はやっと抱きしめた力を緩めると、俺をみんなのところへ連れて行った。 「俺を含めて麻生田の旦那衆はもっと嫁さんを大切にしなきゃな。」 お義父さんが、お義母さんの肩を抱き寄せて ぼそりと呟いた。 「パパ…俺はもう十分だよ。」 右京さんが 「そんな…俺がワガママだから… 潤は俺のことを大切にしてくれてます…」 「右京…」 手を取り合って見つめ合う二人。 「俺も! こんなに大切にして愛してくれてるのに… 継がどれ程 心配するのか考えてなかった。 ちゃんと聞かないで勝手に出て来てしまって… 継、ごめんなさい…」 「詩音…」 また抱き寄せられ、腕の中にすっぽりと包まれる。 蜂蜜のようなとろりと甘い匂いが充満している濃密な空間に、それぞれの世界に浸っているバカップル達なのであった。

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