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家出人その2⑩
あっ!そうだ!
あんな風に甘えればいいのか…何言おうかな…
その光景を見て、俺も つーっと継の側に行くと
「ねぇねぇ、継?」
「…何?」
「ちょっとしゃがんで?」
訝しげな継の耳元で、そっと一言…
継は目を大きく見開いて俺を見た。
口元に手を当て、ふるふる震えている。
ふえっ?言い方間違えた?
「しおーんっ!!!!!
おま…お前っ…何てかわいいんだぁーーっ!」
むぎゅうーー!!
「…け、継っ…苦しいよっ!」
バッシーーーン
「痛っ!…お袋っ、何するんだよっ!」
「バカ息子っ!詩音君が潰れるっ!離れろ!
玄関で盛るなっ!
詩音君、大丈夫?」
「けほっ、けほっ…はぁっ…お義母さん…大丈夫です…」
べりべりと継から引き離され、お義母さんの腕に抱きとめられ、頭を撫でられた。
継は膨れっ面だ。ふふっ。そんな顔もするんだね。
お義母さんの前では小さな子供みたいだよ。
お義母さんが小声で
「ねぇ、何て言ったの?」
「…あの…えっと…『帰ったらたくさん抱っこしてね』って。
さっき右京さんから一杯教えてもらったから…言ってみました。えへっ。
お義母さん、今度俺にも教えて下さいね。」
「ふふっ、そうか…詩音君もなかなかやるなぁ。わかったよ、伝授しよう。
うんうん、うちのお嫁ちゃん達は優秀だ!
さぁ、ご飯だご飯!
詩音君、手伝ってくれる?」
「はいっ!」
番に甘えてもらいデレデレの旦那達を適当にあしらいつつ、嫁三人はそれぞれに、甘やかした結果つけ上がったダンナ達に、二人っきりになったら恐ろしいことになるのでは…と一抹の不安を抱えつつ箸を動かしていた。
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