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獣達の密談③
「…うん。あの時は詩音の顔を見るまで、生きた心地がしなかった…
アイツに何かあったら俺も…そう思ってたから。
本当に、無事でよかった…だから、急に詩音がいなくなると、あの時の恐怖が甦るんだ…」
「…そうか…トラウマになっちまったんだな…」
「おまけに」
「何だ、まだあるのか?」
「うん…その後、俺の何気ない一言で詩音を傷付けてしまって、番拒否症候群になったんだ。」
「番拒否症候群!?…それ、よく元に戻ったな…
なかなか完治しないって聞いてるぞ。
お前の愛が本物だったってことか…
継…お前、ジェットコースターみたいな新婚生活だったんだな…
はあっ…苦労してんだな…同情するよ…」
「詩音は俺の命で全てなんだ。
詩音がいなくなるなんて俺には考えられない。
詩音しかいらないんだ。」
「…さっきは揶揄って悪かったな。
そんなことになってたなんて知らずに…ごめんな。」
「いや、もういいよ。
今日だって、俺が悪かったんだ。
台所片付けてる最中に、ムラムラってして抱こうとしたら拒否られてさ。
『高い皿割ったらどうするんだ』って。
俺より皿の心配かよって、腹が立ってさ。
シャワー浴びてる間に家出しちまって。
姿はないし、置き手紙見て血の気が引いてさ。
道中、また攫われたらどうしようって。
だから無事に家に着いたと思ったら、安心して大泣きして…恥ずかしいけど…」
「そうか…何だかお前、不憫なやつだな。」
「…別に同情してもらわなくてもいいよ。
…なぁ、あの二人、何の話してるのかな。」
「詩音君から誘ってるってことは、どうせお前の愚痴でも零してんじゃねぇのか?
俺は右京に信頼されてるからな。」
はっ、よく言うぜ。バカ兄貴め。
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