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落ち込み①

やっと日常のリズムが戻ってきた。 お弁当を二人分作り、朝からベタベタしたがりキスを迫る継を(かわ)しつつ朝食を済ませ、継と一緒に出社して、お昼は時間が合う限り出来るだけ一緒に食べて、帰りは継に余程の残業がない限り一緒に帰宅する。 継が帰れない時は、玄関の鍵を俺が中から掛けてしまうまで、篠山さんが送ってくれ、見届けてくれる。 これは本当に篠山さんに申し訳ないのだけれど、以前暴漢に襲われたことがあるからと、継はともかく篠山さんが譲らなかった。 篠山さんの奥様にも俺が直々にお会いしてお詫びしたのだが 「何を仰いますか! これくらいでお役に立てるなら喜んで! 詩音さん、遠慮はいりませんよ。 私達はあなた方のお役に立てるのがうれしいんですから。」 と言ってくれ、継も俺も、お言葉に甘えてそうさせてもらっている。 今日も定時に仕事を終えた継と帰宅して、晩ご飯もお風呂も済ませて、ソファーに座った継に後ろから抱きかかえられ、まったりとした時間を過ごしている。 結婚式を間近に控えた俺は、何かしら落ち着かない気分でいるのだが、継は相変わらずのマイペースで、呑気に構えている。 これが夫と(つま)との違いなのだろうか。 入籍も済ませ事実上夫夫(ふうふ)の俺達には、何の障害もないのだが… 目立つことが苦手で、できることなら挙式も二人で済ませたいくらいの俺は、やはり抵抗感を拭えなかった。 「詩音、やはり式はしたくないのか?」 継に問われ、ドキッとした。 口に出さなくとも、番には匂いでいろんな感情がバレてしまう。

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