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落ち込み②

いくら取り繕っても、この鋭い番にはすぐにバレてしまう。 ため息を一つ ついた。 仕方がない…正直に伝えよう… 諦めて、ドキドキしながら答えた。 「したくない、というか…やっぱり華々しいことが苦手で…身内とは言え、誰かがいるのが苦手で… 俺なんかのために、そんな、結婚式なんて… こんな俺なのに番にしてもらって、愛してもらって… 継はすぐに俺を籍に入れてくれたから、もう夫夫だと認められているし、これ以上のことは望んでいないんです。 今も俺は継の愛に包まれているから…」 継は俺をぎゅうっと抱きしめると、肩に手を置いて、目をじっと見つめて話し始めた。 「…うん、詩音の性格なら多分そうだとは思っていたけど。 俺は紙切れ一枚の婚姻届よりも、実際にあの場所でお前との永遠の愛を誓いたいんだ。 それに… 詩音を大切に育ててきたご両親やお義兄さん達に『俺がこの先ずっと詩音のことを大切に愛し続けます』って、きちんと宣言したい。 もちろん俺の家族達にもその決意の証人になってもらいたいから。 お前には負担のかかる数十分かもしれないが、俺にとってはものすごく意味のある時間なんだ。 お前が嫌だというのはよくわかる。 でも、頼む。お願いだ。 その時間、俺にくれないか?」 見つめる瞳がゆらりと揺れる。 いつもの継の匂いに懇願が合わさっている。 どうしようもなく俺を甘やかすこの(ひと)は、一度自分が“こう”と決めたことは、言い出したら引かないんだ。 ふうっ と息を吐いて、継の目を見つめ直すと 「わかりました。 でも、簡素にお願いしますね。」 と念押しした。

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