283 / 829

落ち込み③

継はその答えに 待ってました!とばかりに 「詩音!ありがとう… できるだけお前に負担のかからないようにするから。」 と、ご機嫌でキスをしてきた。 そんな継の喜びとは反対に、俺は益々気分が滅入ってきてしまった。 あんな請うような目をされ、あれだけ言われたら『YES』と答えるしかないじゃないか。 それに俺が何を言おうと、先日みんなで結婚式場を下見に行って、細々(こまごま)としたことも決めて、俺以外の全員がワクワクしてて。 もう、決定事項じゃないか。 日にちも挙式時間も全て。 絶対に…これは覆ることはない。 それでも継が俺に『お願い』と言ってくれたのは、継の優しさからだ。 このイラつくような、不安定な感情は何なんだろう… 結婚式に関する何もかもを放り出して逃げたいなんて。 あの荘厳でステキな教会で、大好きな継と永遠の愛を誓うって、すごいことなのに。 ただ素直に、みんなに『おめでとう』と言ってもらえばいいじゃないか。 俺の両親や兄さん達…俺がΩだったせいで、今まで散々迷惑や心配かけてきたから、俺の晴れ姿をきっと喜んでくれる。 継のご両親やお義兄さん、右京さんも、手放しで喜んでくれるはず。 それだけなのに、どうしてここまで卑屈になってしまうんだろうか。 「…詩音?」 何か物言いたげな継の瞳とぶつかった。 両方の目尻にそっと口付けられ、舌先で舐め取られた。 無意識に泣いていたのだ。 優しく髪の毛を()かれて、辛そうに問われる。 「…泣くほど嫌か?」 ふるふると首を横に振ると 「…泣くほど…それほどまで嫌な思いをさせてまで、式を挙げる必要はないか… よし、一旦延期しようか。 詩音の気持ちが落ち着くまで…」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!