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落ち込み⑤

継はしばらく俺の頭を撫でていたが… 次第に泣き声が小さくなっていくのを確認したのか、顔を覆う手にそっとキスをすると、部屋を出て行ってしまった。 継!待って、継っ! みんなに伝えるのは待って! 慌てて飛び起きると、ぐちゃぐちゃの顔のまま、後を追いかけた。 リビングにはいない。 キッチンの中にも。 トイレ…もいない。 ぼそぼそと継の部屋から話し声が聞こえてきた。 誰かと電話してる!? お義父さん?それともお義母さん? どうしよう…どうしよう… ノックをするのも躊躇われ、ドアの前に立ち尽くしていた。 程なくして、かちゃりとドアが開き、俺に気付いた継は 「おわっ!びっくりした…詩音、どうしたんだ? ほら、こっちにおいで。」 大きな腕に抱き止められ、頭にキスを落とされた。 また涙が出てきた。 涙腺が崩壊している。 えぐえぐと泣きながら 「…っく…わかんない…どうしていいのか…ひっく…わかんない…」 「よしよし。いい子だ、詩音。 そうだ、暖かいものでも飲もう。」 手を引かれソファーに座らされた。 キッチンに消えた継が、トレイにマグカップを一つ乗せて戻ってきた。 甘い香りのそれはホットミルクだった。 きっと蜂蜜がたっぷりと入っているのだろう。 「熱いから火傷しないように。」 そう言うと、俺にカップを手渡してきた。 受け取って、ふうふう冷ましながら一口。 「美味しい…」 冷えたココロとカラダにじんわりと染み渡っていく。 また、ぽろり…と流れ落ちた涙を継がそっと拭ってくれた。 濡れた目で継を見つめる。 心配そうな瞳と匂いが俺を包み込む。

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